12月7日 診断できない病気を診断するための研究(11月29日号The New England Journal of Medicine掲載論文)
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12月7日 診断できない病気を診断するための研究(11月29日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2018年12月7日
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医療の最初のステップは診断することで、これにより病気をカテゴリー化してそれに合わせた治療を行う。私自身の短い臨床経験でも、ほとんどのケースで診断がついた。しかし、診断がつかない病気は現在も多く残っているはずで、適当な診断が付けられて治療が行われるか、あるいは診断がつかないため、確定診断を求めて病院を転々とすることになる。

米国では、このような診断がつかない患者さんを、医療界が一丸となって診断しようとするためのUndiagnosed Disease Network(診断できない病気ネットワーク)がNIHの助成を受けて2014年に組織化され、2015年までの1年間に1519人の患者さんがリクルートされ、そのうちインフォームドコンセントが取れた患者さん601例で徹底的に診断する試みが、全米の施設が参加して行われた。今日紹介するのはこの成果の報告で11月29日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Effect of Genetic Diagnosis on Patients with Previously Undiagnosed Disease (これまで診断がつかなかった患者さんの遺伝子診断の効果)だ。

タイトルでは遺伝子診断の効果となっているが、このネットワークは徹底しており、もちろんんゲノム解読に基づく遺伝子診断施設は言うに及ばず、血液や尿の代謝物を調べるメタボローム施設、専門家の会議、そして発見された新しい遺伝子の機能を調べるショウジョウバエやゼブラフィッシュの施設までが集まっている。

結果は次のようにまとめられるだろう。
1) 診断の難しい患者さんの半数以上は小児で、また4割が神経症状、1割が筋肉や骨の関わる整形外科領域。
2) このネットワークに登録する前に、すでに3割の患者さんがエクソーム解析を行っており、米国での遺伝子診断の普及度を示しているが、同時に一施設だけではゲノム配列から正確に診断することが難しい場合も多くあることを示している。
3) これだけ徹底しても、解析が終わった382例のうち132例(35%)しか診断がついていない。
4) そのうち、タイトルにもあるように遺伝子診断で診断がついた例は74%もあり、遺伝子解析の重要性を物語っている。42%はエクソーム解析で、24%は全ゲノム解析で診断がついている。全ゲノムを行った中の半数はエクソームだけでは診断がついていない。
5) とはいえ、専門家が集まり議論することで2割程度は遺伝子に頼らず診断ができる。
6) 16例の全く新しい病気を発見することができ、そのうち15例はこれまで知られていない遺伝子の変異による病気だった。
7) ショウジョウバエを用いて遺伝子機能を調べることで発見できた新しい遺伝病もあった。
8) 診断には平均で200万円近くの費用がかかっているが、診断を求めて転院を繰り返したり、間違った治療を受けるコストから考えると、全体の医療費は下げられるという試算を提出している。

以上が結果のまとめで、新しい病気については詳しく述べられているので、興味があれば論文を読んで欲しい。

個人的印象としては、米国の医療界が診断をつけられない病気があるということに真剣に向き合っていることがよくわかったのと、遺伝子検査の力を改めて思い知った。いずれにせよ、我が国の取り組みは10年遅れているのではないだろうか。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月6日:mRNAのアセチル化(12月13日号Cell掲載論文)

2018年12月6日
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私がmRNAのメチル化をしっかり理解できたのはそう昔の話ではなく、こんなこともあるのかと論文ウォッチでもかなりの回数紹介している。最も最初に紹介したのは、2013年の京大薬学部岡村さんのグループがCell に発表した論文だった。あれから5年だが、今度はmRNAのcytidineがアセチル化の意味についての研究が米国NIHから12月13日号のCellに発表された。tRNAやrRNAならあらゆる修飾が存在するなら、mRNAで起こって何が不思議かと言う話だが、それでもmRNAがここまで様々な修飾を受けているとは考えだにしなかった。タイトルは「Acetylation of Cytidine in mRNA Promotes Translation Efficiency(mRNAのcytidineのアセチル化は翻訳の効率を上げる)」だ。

この研究では最初からmRNAのcytidineもアセチル化されており、それに関わる酵素は他のRNAと同じでNAT10 だと決めて研究を始めている。

先ずNAT10をノックアウトしたHeLa細胞株を作成し、細胞の増殖が低下すること、そしてpolyA-mRNAのアセチル化がNAT10欠損株で完全になくなることを明らかにしている。すなわち、mRNAのアセチル化はコンスタントに起こっている。

次に、アセチルcytidineに対する抗体で濃縮したmRNAの配列を決定し、基本的には特定のmRNAや特定のcytidineがアセチル化されるのではないが、アセチル化が欠損すると発現が低下する遺伝子が多いこと、そしてタンパク質をコードしている部位のcytidineがより選択的にアセチル化されていることに気づく。

次に、アセチル化がmRNAの代謝に及ぼす影響を調べ、細胞内での半減期がアセチル化されているRNAほど長いこと、アセチル化されているほど翻訳の効率が高まることを発見する。

そして、これら現象の原因を、さすがRNA研究者のプロと思わせる発想で実験的に示すのに成功する。それぞれのアミノ酸に対応するコドンの3番目の塩基は、たとえばセリンに対しては4種類全ての塩基が対応できるし、例えばチロシンの場合UAに続いてUかCの2種類が来るように、複数個存在できる。面白いことに、アセチル化されているcytidineはまさにコドンの3番目の塩基として使われている確率が高い。しかもコドンに対応するtRNAが相補的コドンだけでなく、3番目の塩基がマッチしなくても翻訳できるWobbleと呼ばれるtRNAが存在するコドンの最後のCがアセチル化されている確率が高い。このことから、リボゾーム上で出会う確率がそう高くないtRNAを安定的に捕まえるための仕組みではないかと仮説を立てた。

そして、翻訳活性を図るためのルシフェラーゼ遺伝子内のこの条件を満たすコドンの最後のCを、同じアミノ酸をコードできる他の塩基に変えてNAT10の欠損細胞株と、正常細胞株に導入すると、アセチル化活性が正常株では、C以外の塩基に代えると翻訳活性が5分の1になること、また試験管内での翻訳でも発現量がアセチル化されたcytidineでは20−30%翻訳が高まることを示している。

完全にマッチしないtRNAを効率よく捕まえる一つのメカニズムとしてこのような仕組みができてきたという結論になるが、RNA研究のプロでないとできない研究だというのはよくわかった。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月5日 事故で失われた凍結保存卵をめぐる法的処理(11月20日号Annals Internal Medicine掲載論文)

2018年12月5日
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今でこそ世界有数の学会に成長したInternational Society of Stem Cell Research(ISSCR)も最初は米国政府のヒト受精卵の研究使用の禁止法案を阻止するための科学者側の運動として計画された。実際、突然米国の幹細胞研究者から、ブッシュ政権がヒト受精卵の研究使用を禁止する法案を議会に提出する可能性があるので、研究の重要性を訴えるために世界会議をやろうというメールがきて、賛同した各国の研究者が、ワシントンに集まったのが最初だった。当時、ヒトES細胞の重要性を支持してくれていた上院議員まで、会議に参加して演説を行ったのをよく覚えている。この時、保存受精卵からのES細胞樹立に強く反対していたのが、キリスト教原理主義とそれに支えられた共和党議員で、その根拠はヒトの卵は受精の瞬間から人であり、それを用いてES細胞を樹立することは、殺人と同じだと言うのが根拠だった。

その後ISSCRは成長を続け、4000人のメンバーを擁する学会になったが、受精卵の位置付けについて米国では今も議論が続いている。ところが、この議論を異なる側面からゆるがす出来事が今年3月、クリーブランド大学の人工授精センターで発生した。950人の不妊治療を受けている患者さんの卵子4000個が液体窒素タンクの事故で失われてしまったのだ。この出来事から派生したさまざまな法的問題をハーバード大学の法科大学院の教授を中心のグループがAnnals Internal Medicineに発表した。タイトルは「Losing Embryos, Finding Justice: Life, Liberty, and the Pursuit of Personhood(胚を失うことと、正義を求めること:生命、自由、そして人であることの追求)」だ。

人的ミスで液体窒素が枯渇したため、預けられていた4000の胚が一瞬にして失われたのが事の発端だ。もちろん、捨てていた卵子ではなく、将来の使用が見込まれていた卵子であることから、損害の補償を求めた法廷闘争が始まっている。ほとんどの被害者は団結してまとまって法廷で争う準備を進めているが、全く個人的な訴訟を始めようとしているグループも存在する。この中のWendy & amp; Rick Pennimanは受精卵は生きており人間として扱われるべきで、今回の事故も過失致死として裁くべきだとする訴訟を始めている。思わぬ方向から、受精卵についてのこれまでの議論が蒸し返される事態になった。

この論文では、まずこの裁判が難しい幾つかのポイントを指摘している。

1、 まず法律がない。液体窒素タンクはFDAの認可が必要なものではなく、またその仕様についての法律がない。
2、 さらに医療行為としての生殖補助医療に関する法律自体も少ない。
3、 不注意による胚の毀損を位置付ける法律がない

次に著者らは利用できる法律も含めてオハイオ州の裁判所に対してアドバイスをしている。

1、 多くの診療所では、保存時の事故について患者が認めるよう契約を取り交わしている。その内容を精査すべし、
2、 裁判は、所有物の毀損および家族計画の妨害を争うようだが、被害の算定は難しい。
3、 胚毀損を殺人と位置付けると、中絶からヒト胚研究まで大きな法的規定が必要になるので、殺人罪の訴えはき認めるべきではない。
4、 また、裁判官も照らす法がなければ、判決を追求することはやめて、新しい法整備が必要と明示し、現在の法で裁ける範囲に裁判を限るべきだ。
5、 その際、医療上のミス、医師と胚保存施設の間の責任関係も明らかにするとともに、被害者とこの事故の内容についてより深く話し合いを持つべきだ。

以上、わが国でも起こりうる事故だが、保存受精卵一つとっても、前もって法を整備することの難しさが理解できる面白い意見論文だった。私たちNPOも一度法学の先生に話を聞くことにする。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月4日:ミトコンドリアが父親由来のケースも存在する(米国アカデミー紀要掲載論文)

2018年12月4日
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私たちの核内ゲノムは母親と、父親からそれぞれ由来しているが、ミトコンドリアになると全て母親からというのが常識だ。ただ、母親のミトコンドリアに増殖異常が存在する場合、父親由来のミトコンドリアも子供に伝わるケースがあることが、様々な動物で観察されている。

今日紹介するシンシナティこども病院からの論文は、父親からのミトコンドリアが子供に伝わっていることを確認できる例を、ミトコンドリア症が発生している家族で調べた研究で米国アカデミー紀要にオンライン掲載された。タイトルは「Biparental Inheritance of Mitochondrial DNA in Humans(人間で見られる両親からのミトコンドリア遺伝)」だ。

もちろん全く正常のミトコンドリアの場合、オスのミトコンドリアが子供に伝わるチャンスはない。実際、顕微授精後の卵割を追跡した研究で、人間の場合は4−8細胞期になると、静止由来のミトコンドリアは検出できないことがわかっている。そこでこの研究では、ミトコンドリア病が多発する家族を探して、3−4世代のミトコンドリア遺伝子を調べて、父親からのミトコンドリアが世代を超えて伝えられているケースを探し、3家族見つけることに成功している。

最初の症例は4歳児のミトコンドリア病が疑われる児童で 母親もミトコンドリア病と考えられる症状を持っていることがわかっている。兄弟、両親、祖父母を含む3世代についてミトコンドリアゲノムを調べたところ、これまでミトコンドリア病の原因として特定されている変異は見つからなかった。しかし、兄弟、母親、そして祖父の姉妹のミトコンドリアがその前の世代の曾祖父母由来のミトコンドリアが混在するヘテロプラスミーを示しており、これが祖父、母親、兄弟姉妹へと遺伝していることが確認された。

著者らは、さらにミトコンドリア病の家族の中に、父親からのミトコンドリア遺伝が認められるケースがないか調べ、続けて2家族で父親からの遺伝を確認するのに成功している。2番目の家族は、父親に祖父母からミトコンドリアが遺伝して、それが一人の男児に遺伝している。3番目の家族では、曾祖父母両方からミトコンドリア遺伝子が祖父に伝わり、その兄弟姉妹、およびその子供の一人が、同じパターンのミトコンドリアを受け継いでいることが確認されている。

以上、次世代シークエンサーを用いた大量の塩基配列を読むことが可能になったおかげで、これまで症例報告的に示唆されていた、両方の親からミトコンドリアが遺伝することが、条件さえ揃えばあることが明らかになった。ではその条件とは何かだが、残念ながらこの研究ではそこまで明らかにはできていない。おそらく、父方のミトコンドリアを積極的に除去したり、増殖を抑えたりする働きがあることが、まだよくわかっていない核内遺伝子の変異により、父方のミトコンドリアが残存するようになった可能性が高い。実際、3家族ともこれまで知られていたミトコンドリア遺伝子の変異はないのに、ミトコンドリア病の症状が存在する。すなわち、ミトコンドリアの機能が阻害されていることは間違いない。メカニズムはわからないままだが、問題は明らかになった。今後この遺伝子を求めて、これらの家族の核ゲノムの解析が進められると思う。何事にもメカニズムが存在することを再認識した。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月3日 PD-1の代謝(Nature オンライン掲載論文)

2018年12月3日
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トップジャーナルに掲載される中国からの論文がここ数年、急増しているのは誰もが感じていることだが、科学的に可能と思えるトレンディーな問題にはなんでも果敢に取り組みやり遂げてしまうという力強さを感じる。逆にいうと、できるかどうか分からないことにチャレンジする研究は少ない。例えば、最近のヒト受精卵の遺伝子編集だが、今回に限らず以前から、サルからヒトまでともかくやってみるというのはほとんど中国が先行しているように思う。

今日紹介する上海科学技術センターからの論文もそんな例の一つでトレンディーな分子PD-1がリンパ球でどう代謝されるのかについての丹念な研究で、特に驚くほどの研究とは言えないが、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「FBXO38 mediates PD-1 ubiquitination and regulates anti-tumour immunity of T cells (FBXO38はPD-1をユビキチン化しT細胞の抗腫瘍免疫を調節する)」だ。

一昔前は、大事な細胞表面タンパク質についてはそれが細胞内でどう代謝されるのか調べる研究が多く行われていた。一部のタンパク質は小胞輸送によりリソゾームへと輸送され分解されるが、一部はプロテアソームにより分解されることが知られており、小胞輸送ルートに乗った分子の一部は再利用されることもある。その意味で、PD1のような免疫の強さを決める重要な分子が、どのルートで代謝されるのか、これまでほとんど研究されていなかったのが不思議な気がする。ただ、この上海のグループは、これをタンパク質化学的に調べ、T細胞が抗原刺激を受けると、PD-1が細胞質内でユビキチン化され、細胞表面のPD-1を低下させることを明らかにしている。T細胞の刺激を維持するために、PD-1を代謝経路で低下させるのは、なかなか合理的なメカニズムだ。

そして、最終的にこのユビキチン化を誘導するのがFBXO38ユビキチンリガーゼである事を突き止めた。この発見がこの研究のすべてで、あとはFBXO38の細胞内での発現量に応じて、PD-1の細胞内での分解が増減して免疫細胞のブレーキが強まったり弱まったりすることを示している。

具体的にはFBXO38がT細胞でだけ欠損するマウスを造ってガン免疫反応を調べ、期待通りユビキチン化が低下すると,PD-1の発現が高まり、その結果がんに対する免疫が低下することを示している。ただ、その効果は少し弱い印象があるため、実際のPD-1の代謝はもっと複雑な経路で調節されているのだろう。

最後に、FBXO38の発現量に関わるT細胞刺激を探索して、IL-2がFBXO38を誘導して、PD-1の発現量を低下させること、これによりがん免疫が上昇することも示している。

話はこれだけで、繰り返すが効果が驚くほどではないため、この経路だけを狙った薬剤開発に進むかどうかは疑問だと思う。しかしユビキチン化の下流にあるプロテアソーム阻害剤はガンでも用いられることを考えると、このようなケースではPD-1阻害抗体がより効果を示す可能性が想像できるので、臨床的には大事な結果と言える。

ユビキチン研究ができる研究室なら恐らくどこでも可能な研究だと思う。おそらくわが国では、トレンディすぎて品がないと尻込みするのだろうが、それをしっかりものにするのが中国だと、つくづく感心する。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月2日:普通の人でアルツハイマー病が始まるメカニズム?(Natureオンライン版掲載論文)

2018年12月2日
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アミロイドタンパク質などの突然変異によりアルツハイマー病が誘導されることは疑いのない事実で、確実に発症させたい動物モデルの場合、ほぼ100%遺伝子変異マウスを用いている。しかし、多くのアルツハイマー病は、特に遺伝的な素因もなく一見全く正常な人にも突然襲ってくる。しかも、一旦アルツハイマー病を発症した人では、脳細胞にアミロイドβのような異常タンパク質が蓄積しているのは明らかなので、正常脳細胞のアミロイド前駆タンパク質(APP)におこった体細胞突然変異がアルツハイマー病の原因ではないかと考えられてきた。ただ、突然変異を持った細胞が他の細胞より増殖するガンと違って、遺伝的変異が起こっても細胞が増えるとは思えないアルツハイマー病では、変異が病気発症につながる道筋を考えるのは難しい。

今日紹介する米国Sanford Burmham Prebys医学研究センターからの論文は、アミロイドタンパク質をコードする遺伝子が、レトロウイルスのように組み替えで増殖することがアルツハイマー病の原因になっている可能性を示す恐ろしい研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Somatic APP gene recombination in Alzheimer’s disease and normal neurons (アルツハイマー病と正常人でのアミロイド前駆タンパク質の体細胞組み換え)」だ。

この研究ではまずアルツハイマー病の患者さんの脳細胞でAPPが本当に変異しているのかどうか調べている。ただ脳細胞は増殖しないので、同じ変異を異なる脳細胞が持っている可能性は少なく、ゲノム解析でこのような変化を見つけることは困難が予想される。そこで、異常タンパク質の原因となるようなmRNAが存在するのか、前頭前皮質からの神経細胞を精製し、50個づつにわけ、それらの細胞が発現している変異型のRNAを探している。そして期待通り、全てのサンプルで、12種類の変異RNAを特定するのに成功し、そのうち5種類はタンパク質へと翻訳できることを示している。しかも、これら変異タンパク質は途中のエクソン・イントロンが喪失した、短いcDNAであることがわかった。

次にこれらの異常RNAが作られる過程を調べ、異常mRNAが正常遺伝子から転写されたのではなく、イントロンを持たないスプライシングを受けた後のcDNAが、ゲノムに多く存在していることを発見する(genomic cDNA: gencDNA)。これらが元々のゲノム遺伝子とは別にゲノム上に存在していることを、核DNAのin situ hybridizationで確かめ、アルツハイマー病の細胞では複数のコピーがゲノムの別の場所に存在する事を確認する。これらの結果は、APP遺伝子が一度転写された後、逆転写酵素でcDNAに転換され、それがゲノムに再挿入された可能性を示唆している。

しかも、このようなゲノムに挿入されたgencDNAは神経細胞だけに認められ、またアルツハイマー病で異常が起こることが知られている他の遺伝子では起こらない。このことから、APP遺伝子は、gencDNAを合成してトランスポゾンのように増幅されることがわかった。

この現象は、アルツハイマー病を発症した神経細胞だけでなく、正常人の脳細胞でも見られる。ただ、正常人の脳細胞ではアルツハイマー病の脳細胞と比べはるかにgencDNAの数は少ない。またアルツハイマー病の患者さんでは、病気の発症に関わることがわかっているAPP異常タンパク質をコードするgencDNAが増えていることがわかった。幸い、正常人の細胞では見つかっていない。

以上の結果は、アルツハイマー病では、APPmRNAが逆転写酵素でDNAへと転写され直し、それがゲノムDNAに挿入されると言う、レトロウイルスさながらの過程が神経細胞では起こることで、異常APP遺伝子が増幅できる事を示している。

この研究では、こんなことが本当に起こるのかについても、培養細胞を用いて確かめている。具体的には、発現ベクターを用いて一つのタイプの変異APP cDNAを導入、この遺伝子からgencDNAが作られ、ゲノムに挿入されるのか調べている。結果だが、どんな細胞でも、逆転写酵素を発現して、APPの短い異常型mRNAがが転写され、その上にゲノムDNAが加わると、gencDNAが新たに作られることがわかった。さらに、ヒトの異常APP遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの脳細胞でも、gencDNAができていることも示している。

以上の結果は、細胞が増えなくても、異常DNAがそれ自身でゲノム上で増殖していく事を示す恐ろしい結果だが、DNAの切断が脳細胞では起こりやすいことが知られており、説得力のある結果だ。なぜAPP遺伝子のみこんなことが起こるのかなど、わからないことも多いが、アルツハイマー病を考える上では、説得力がある。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月 注意障害を通して就学に際しての早生まれの問題を考える(11月29日発行The New England Journal of Medicine掲載論文)

2018年12月1日
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子供の成長速度は年少時ほど早いため、学童期まで1年もたつと子供の身体や行動は大きく変化しているのが普通だ。しかし、幼稚園や学校に通い出すのは、わが国では4月と決まっており、4月生まれの子供と、3月生まれの早生まれでは、同じ学年でもほぼ一年という実年齢レベルの発達の違いがある。これがハンデとして様々な問題を引き起こすことは様々な調査でわかっており、小学校低学年までは早生れの子供は学力に差が見られる。しかし、生まれ月ごとに学業の開始時期をずらすことは現実に不可能なため、制度としての対策は難しい。

さて米国では学校の始業は9月になるが、今日紹介するハーバード大学医学部からの論文は、最も成長して就学する9月生まれの児童と、最も早く就学する我が国でいえば早生れに相当する8月生まれの児童で、ADHD(注意力欠如、多動性障害)の診断を受ける頻度が大きく変化することを40万人規模の学童調査で示した研究で11月29日のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Attention Deficit–Hyperactivity Disorder and Month of School Enrollment (ADHDと修学月)」だ。

研究では2007-2009年にかけて生まれたが児童の中でADHDと診断を受けてさまざまな治療を受けたケースを、保険会社の一種のレセプトから掘り起こし、症例をいくつかの条件で層別化し、9月生まれと、8月生まれの子供のADHD診断頻度を比べている。我が国で言えば、4月生まれの子供と、3月生まれの子供のADHDの診断率を比べるのと同じ研究だ。

少しわが国と異なるのは、小学校へ入学する前5歳前後でで幼稚園に入るが、この幼稚園入園は州によって9月で区切られている州と、入園時期を9月に限定しない州があるので、両者で診断率を比較している。

結果だが、幼稚園入園時期が厳密に9月になっている州では、9月生まれの児童と、8月生まれの児童でADHDと診断された頻度を見ると、3割高くなっている。ところが4月vs5月というように、他の前後の月を比べるとほとんど差がない。ADHDではなく、身体的な他の病気を比べると、このような差は見当たらない。さらに驚くのは、幼稚園の入園時期が小学校に連動して9月になっていない州では、このような差が見られない。そして、この差は男の子だけで有意に見られる。

以上が著者らが引き出した結果だ。ただ、データをよくみると、ADHDと診断される数は、もっとも年長の9月生まれが0.63%と最も低く、それから10月、11月、・・・6、7、8月と実年齢が低下するのに従って、0.69, 0.74, 0.76, 0,81, 0.89, 0.90, 0.90, 0.87となっており、実際には4月、5月生まれで診断率が最も高い。ただ、前の月とだけ比べると、その差が見えないようになっている。従って、私なら早生まれの最初の5ヶ月(4−8月生まれ)と最も年長の3ヶ月(9−11月)ではADHDの診断率が異なっていると結論するだろうなと思う。

いずれにせよ、我が国で言う早生まれの子供は確かにADHDと診断されやすいという結論になるが、ではその原因は何かが問題だ。著者らは、ADHDの気づきが最初学校や幼稚園の先生や、親が他の子供との比較をきっかけに行われることが多いことから、実年齢が低いことによる注意障害などが年長の子どもと比較することでより顕著に見えてしまうからだと考えている。すなわち、多くは過剰診断と結論している。

ただ、幼稚園の入園時期が9月と区切られていない場合この傾向が薄まることから、個人的には大勢の子供との交流が、児童に対してストレスになり、実年齢の差がより強く現れているのではとも思う。

このように、私は著者の解釈だけしかあり得ないとは思はない。ただ、早生まれの子供には、これまで問題になっていなかったADHDと診断される頻度の問題があることはよくわかった。子供のことを親身になって調べた研究だと思う。我が国では、教育のためのマニュアルも大きく違うと思う。その意味で、ぜひ同じような調査を行い、同じような傾向があるのか明らかにして欲しい。というのも、このような差でADHDの診断数が変わるなら、介入の余地がある。しかし、このような調査研究を掲載したThe New England Journal of Medicineの編集者も社会のニーズをよく把握して雑誌を運営していることがよくわかった。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月30日 ハイエナは女系社会か?(11月19日号Nature Ecoloty & Evolution掲載論文)

2018年11月30日
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9月にアフリカに行った時、ハイエナは何回か見る機会があった。いつも物悲しい顔をしており、この写真も左側のオスの股間から察するに交尾に及ぼうとしているある意味では興奮の瞬間なのに、表情は物悲しい卑屈さが漂ったままだ。

面白いことに、ハイエナは群れで暮らすことが多いのに、珍しくオスメスのサイズが同じだ。強いオスがメスを支配する動物はオスの体格がメスより大きいのが普通だ。このことから、ハイエナの場合、メスが群れを支配していると考えられていた。メスは交尾は一回なので、オスを争はないからだろう。またハイエナの社会を観察したこれまでの研究でも、群れのトップは常にメスである事が観察されていた。

今日紹介するのは、ドイツ ベルリンにある「動物園と野生生物研究所」からの論文で11月19日のNature Ecology and Evolutionに掲載された。タイトルは「Social support drives female dominance in the spotted hyaena(社会的指示がハイエナ社会の女性優位を形成させている)」だ。

著者らは長年の観察に基づいて、ハイエナ社会がメス優位の社会に見えるのは、実際には競争が起こるときに周りにいる親しい仲間の存在に大きく左右されるのではないかと直感し、これを調べるため丹念な観察を行った。

研究では8つの群れで起こった748回の個体同士の競合の状況を細かに観察し、何が勝者を決めるのか調べている。ハイエナの群れは、確かにメス優位で、受け入れられる流れものはオスだけという構造になっている。すなわち、メスは群れの中でずっと暮らす。このため、一対一の競合が起こるときの個体間の関係は、1)群のメンバーのメスと流れ者のオス、2)群のメンバー同士の個体同士(同性、異性両方の場合がある)、3)流れ者のオス同士、そして4)異なる群の個体同士の4状況に考えられる。

この時に、周りにいる個体の状況を丹念に観察し競合の結果の判断に組み入れたのがこの研究の重要性で、群れの個体の序列や関係性を知るためになんとハイエナの8世代、21年間の観察を続けた結果だ。

結果は予想通りで、どのような組み合わせでも近くにいる仲間の存在が競合の成否を決めている。一方周りに仲間がいない一対一の競合ではほとんど結果は予測できず、同じ群れのメンバーの場合はメス優位では全くなく、50/50の関係であることが分かった。

勝ち負けの絶対数だけを数えるとメス優位に見えるのは、オスの多くが後から群れに入った流れオスのため、仲間がおらず、一方メスはずっと群れで暮らしているためだ。すなわちオスとメスの競合だけに注目してしまうと、仲間の多いメス優位という結論になるわけだ。実際には、群のメンバーだとオスメスの間には差は全くない(それでも他の動物と比べるとかかあ天下と言えるが)。

以上が結果だが、同じことは人間にも言えるのかも知れない。直立原人誕生で人間の男女の体格差がほとんどなくなる。これは一夫一婦制が始まったせいかと単純に考えていたが、そう簡単な話ではなさそうだ。直立原人が誕生した当初は、おそらくハイエナのように肉や骨も狩で手に入れるのではなく、拾い集めていたのではないだろうか。とすると、身近な仲間の数が重視される社会構成さえ築ければ、見た目で女性優位社会ができ、男女の体格差がなくなることもあることがよくわかった。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月29日 理屈抜きで相関性を計算してみる重要性(Nature Neuroscience 12月号掲載論文)

2018年11月29日
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20世紀までの生命科学は、物理学的な因果性で対応できないこと(例えば目的論や進化など)を取り敢えず情報の問題として、実体から分離してくることに成功した。例えば、ダーウィンの個体の形質の多様性をDNA配列の多様性に還元するのがこの例だ。しかも21世紀に入って、あらゆる生物のゲノムを完全に解読することが可能になり、とりあえずレファレンスの情報としてDNAが利用できるようになった。ただ、生物にはゲノム以外のさまざまな情報が集積しており、エピゲノム、神経活動、脳活動、そして人間になると言語から文字、バーチャルメディアまで、一人一人の個体にこれらの情報が集まっている。この為、21世紀に入って、それぞれのレベルの情報を関連づけることが生命科学の重要な課題になっている。こう考えると発生学はゲノムとエピゲノムの関連付けの学問と言えるかもしれない。幸い、ゲノム・エピゲノムは近いところにあり、統合しやすいが、高次脳機能となると、その間に多くの情報が介在して直接の関連を語ることは難しくなる。ここで出番になるのが、回帰分析のようなともかく相関を見つける方法だ。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、まさにこのラインの研究で様々なレベルの情報を自閉症の言葉を話す能力の発達障害と相関させようとした研究で12月号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Large-scale associations between the leukocyte transcriptome and BOLD responses to speech differ in autism early language outcome subtypes(白血球のトランスクリプトームと機能的MRIで測定される話し言葉に対する反応は初期から言語能力の影響が大きい自閉症の子供では異なっている)」だ。

この研究では言葉を話し始めた3−4歳児に様々なテストを行い、典型児、言語発達が強く抑制された自閉症スペクトラム(ASD)、そして言語発達は比較的正常なASDに分けて、その子供達を4年間追跡、最初に言語発達障害が強く認められた群で、自閉症症状が年齢とともに悪化すること、逆にASDでも言語発達障害が軽度だと、症状は改善する事を確認している。このことは、言語発達障害が最も感度の良い、予後因子として利用できることを示している。

次に、言葉を聞いた時にASD児で反応が低下していることが知られている領域の反応をMRIで調べ、特に言語発達の遅れているASDでこれらの領域の反応が低下していることを確認している。

この研究のハイライトはここからで、この症状を脳の変化を遺伝子や遺伝子発現(エピゲノム)の変化と相関させようと、ともかく調べやすい末梢血の白血球の遺伝子発現の網羅的解析と、症状やMRIの結果との相関を部分的最小2乗法を用いて計算し、相関する遺伝子を調べている。その結果、言語発達が障害されたグループの脳の反応とある程度の相関を示す遺伝子のモジュールを8種類特定している。

脳とちがって白血球の転写を指標にするとはなんと乱暴なと思ったが、ともかく相関が認められ、相関するモジュールの遺伝子の殆どは多くの組織で発現が見られる分子だ。白血球で調べているのだから当然と言えば当然だが、それでも例えば鳥の鳴き声を調整する遺伝子が多く集まっているモジュールが存在する。また、人間のASDの解剖例の前頭前皮質や、側頭皮質で発現が低下している遺伝子群も多く見られる。他にも、ASDでの異常が知られている様々な機能的指標に関わる遺伝子が今回話し言葉に対する脳の反応と相関した発現遺伝子モジュールに濃縮しているのを示している。
これは遺伝子発現なのでエピゲノムレベルだが、最後にゲノムレベルとの相関を調べるために、これらのモジュール内の遺伝子と、ASDの多くで変異が見られる2種類の遺伝子FMRPとCHD8との関係を調べ、これらの標的遺伝子がやはり相関モジュールの中に濃縮されていることを示している。

話はこれだけで、症状をfMRIの反応と相関させ、それをさらに遺伝子発現と相関させ、最後はゲノム変異と相関させるという21世紀の典型的論文だと思う。ただ、AIもそうだが、計算によって相関が出てしまうので、議論を深めてそれ以上突っ込むのが難しいと言う難点はある。しかし、今の所これに変わる方法はないなと思うのが正直なところだ。 来月神戸大学で、数理生物の本多先生と、いま存在する膨大なデータを使って論文を書いて科研費の少ない時代を乗り越える可能性について大学院生と議論する予定だが、おそらくquestionさえあればともかく可能性が確かめられるのも、ビッグデータの時代だとも言える。
カテゴリ:論文ウォッチ

11月28日 生きたマウスのファイブロブラスト長期観察(11月29日号Cell掲載論文)

2018年11月28日
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「何事も目で見ないとわからない」ことはよくわかっていても、私たちは多くのことを見ないですましてしまう。多くの場合見るのが難しいからで、生物学的プロセスを見るためにはそれを可能にするテクノロジーが必要だ。例えば、神経の興奮を何週間も見続けようとすると、興奮時のカルシウム流入を光に変えて、しかも嚢の中を何日も覗き続けるテクノロジーが必要になる。方法がない場合は、断片を創造力で組み合わせて結論せざるをえないが、これがしばしば間違いの元になる。

今日紹介するエール大学からの論文は皮下に存在するファイブロブラストを、皮膚を傷つける事なく観察する方法を開発しファイブロブラストの動態を何ヶ月も追いかけた研究で11月29日号のCellに掲載されている。タイトルは「Positional Stability and Membrane Occupancy Define Skin Fibroblast Homeostasis In Vivo(場所は変えないが膜の領有範囲の変化が皮膚のファイブロブラストのホメオスターシスを決めている)」だ。

耳は薄いので光を通すため、傷つけずに細胞を観察できる。同じグループはすでに耳の皮膚に存在する細胞を、生きたままマウスを傷つけることなく観察する方法を確立している。この研究では、同じ方法を用いて皮下組織にあるファイブロブラストの核や膜の動態を追跡できるようにし、時間ごとにファイブロブラストの場所や形態を追跡している。これは連続的に観察するのではなく、あくまでも日にちを開けてしかし同じ場所を観察している。

もちろん普通に利用できる共焦点顕微鏡があればできる実験で、はっきり言って新しい技術は全くない。しかし、同じ場所を何回でも、何ヶ月後でも観察できるはずだと考えたのが偉い。おそらく、細胞がダイナミックに移動したとすると、時間を空けてしまうと、その間どうなったのか全く分からなくなるはずだ。しかし、耳介のファイブロブラストの位置が全く変化しないという予想外の結果が図らずも、著者らの実験を後押ししてくれた。すなわち、細胞は何ヶ月も増えも減りもせず、同じ場所に居続けるため、核の分布を見るとそれが指紋のように同じ場所を見ていることを教えてくれる。

私も写真を見ながら驚いているが、2週間ぐらいでは全く変化がない。しかしこんなことを誰が予想しただろう。ある意味では大変な発見だ。そして、まわりの細胞を皮膚の上からレーザーで焼き切っても、細胞の位置は変わらない。すなわち、細胞が消えた穴を埋めることが全くない代わりに、細胞膜を伸ばして細胞が消えた穴をなんとか埋めようとはする。ビデオで撮ると、核の位置は全く変わらないのに、膜だけはダイナミックに変化している。この膜の動きは予想通りRac1とよばれる分子の働きで動きをますが、これは膜の変化だけで、細胞核のポジションは全く変わらない。

面白いことに、これは耳や足の毛のほとんどない部分の話で、同じ耳でも端の方の毛が存在する場所では、自然に新陳代謝が維持され、細胞は2週間もすると違う場所に動いている。とすると、おそらく体幹の皮膚のファイブロブラストはもっと動き回っていると考えればいいのだろう。

あとは新陳代謝のない耳のファイブロブラストに戻って、最後に老化での変化を調べている。ファイブロブラストは老化により失われていくが、これはランダムなプロセスで、皮下で寿命がきた細胞から失われていく。そして、これまで見てきたように、新陳代謝はないため、徐々に細胞数が低下する。その結果、細胞は膜をのばして間を埋めようとする為サイズが大きくなる。しかし、最終的には老化とともに細胞間のギャップは拡大し、いわゆる薄っぺらい皮膚になっていくという結果だ。 実際にはこれ以外にもさまざまな実験を行なっており、大きな損傷では流石に細胞は増殖して穴を埋める。しかしそれでも膜を広げて埋め合わせをしようとする性質は変わらない。何れにせよ安定した皮膚組織では、ファイブロブラストは場所を全く変えないで、老化とともに失われ、この間、膜は極めてダイナミックに変化するが、それによって細胞の場所が変わることはないという結論で、細胞の新陳代謝が必須と思っていた常識を見事に覆した研究だ。最初に書いたが、このような予想外の結果は、結局見て見ないとわからない。「なんでも見てやろう」という気持ちの重要性がよくわかる研究だった。
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