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6月9日:ダウン症治療のための茶カテキン(The Lancet Neurology7月号掲載論文)

2016年6月9日
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   ダウン症候群は21番染色体の数が3本になるトリソミーが原因の発達障害で、全世界に500万人の患者さんがおられる。この病気が原因でおこる様々な症状や二次疾患については治療法が存在するものの、脳機能の発達障害に対する治療はこれまで存在せず、様々な教育プログラムで発達を促すことがこれまでの治療の中心だったが、その効果は大きくない。ところが最近になって緑茶の成分カテキンのうちepigallocatechin-3-gallate(EGCC)が21番染色体上のdual specificity tyrosine phosphorylation regulated kinase 1A (DYRK1A)活性を阻害でき、マウスモデルで学習や記憶を促進させることが明らかになり、脳機能に直接作用する薬剤がついに現れたのではと期待が高まっていた。
  今日紹介するスペインバルセロナ・ポンペウ大学からの論文は、平均23歳のダウン症成人の脳機能障害を、EGCCと従来の学習プログラムを組み合わせて治療する臨床治験研究で7月号のThe Lancet Neurologyに掲載された。タイトルは少し長いが、「Safety and efficacy of cognitive training plus epigallocatechin-3-gallate in young adults with Down’s syndrome: a double blind randomized placebo-controlled phase 2 trial (ダウン症若年成人での認知トレーニングとEGCCの安全性と有効性:二重盲検無作為化第2相治験)」だ。
  既に述べたが研究では89人のダウン症若年成人をリクルートし、完全に無作為化してEGCC+脳トレーニングと偽薬+トレーニングの2群に分け、12ヶ月間週3回程度の脳トレーニングを続けるとともに、片方にはEGCC600mg、もう片方は米粉の入ったカプセルを毎日服用させている。6ヶ月、12ヶ月目に様々な脳機能を調べるためのメンタルテスト、MRIによる脳結合検査、自己申告による生活上の改善につて調べている。
  使われたメンタルテストについて知識がないので著者らの結論をそのまま受け入れるしかないが、記憶、行動性、学習能力、適応性などあらゆる項目について機能低下を抑えることができている。一方、自己申告による生活の質などは変化がなかった。   何よりも驚くのは、このような検査結果に加えて、MRIを用いた脳領域間の結合を調べる検査で、神経結合が保たれることで、メンタルテストの結果が解剖学的基盤を持っていることがわかる。
  副作用については偽薬群と変わりはないが、トクホ飲料でも宣伝しているようにコレステロールを下げる効果はあるようだ。
   今後は、様々な時期にEGCCの効果を調べる治験が必要だが、期待が持てる結果だ。茶カテキンの思わぬ効果と言っていいだろう。ただ、もしEGCCがDYRK1A機能を抑制することで効果があるなら、正常の人が茶カテキンを大量に服用した時、コレステロールだけでなく脳にも影響が出る心配がある。ダウン症の場合DYRK1Aの機能は1.5倍に上がっているため、抑制も意味があるが、EGCCが脳血液関門を通る以上、正常人の脳機能への長期効果は調べておいたほうがいいと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ
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