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7月4日:社会問題の科学1:テロ集団での女性の役割(Science Advancesオンライン版掲載論文)

2016年7月4日
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   社会学を、学者のもっともらしい見識だけに頼る学問から、科学的手続きを経た社会科学へと発展させることは21世紀の課題だ。トップジャーナルの編集者もこの使命を十分認識しており、社会問題を科学的に分析した論文を積極的に採択している印象がある。特にScienceやNatureなどの科学全般を扱う雑誌を見るとこの傾向が最もよくわかる。実際、私がサマリーに目を通して紹介してもいいなと思った論文だけでも、この2週間で4編にのぼった。そこで、今日から4回にわたって、社会問題の科学と題してこの4編の論文を紹介することにした。
   初日はネット上のテロリスト集団について精力的に研究を続けているマイアミ大学から、ネット上で特定できるテロ集団内の女性の役割を調べた論文がScienceの姉妹紙、Science Advancesに発表されているので紹介する。タイトルは「Women’s connectivity in extreme networks (テロ集団での女性の連結性)」だ。
   テロリスト集団の中心は男性が占めていると思いがちだが、テロ実行犯に限らず、女性の重要性が認識されるようになっている。この研究では、ロシアのSNSサイトVKontakte上の投稿を、「イスラム国」「シリアに対するジハード」などのキーワードで検索し、この中から個々のイスラム国支持集団を割り出し、それぞれの集団の中での女性の役割を、ネットワーク上の発信数と広がり、ネットワーク上での活動期間などから分析している。
   この研究でなぜフェースブックでなく、ロシアのVKontakteを対象にしたのかは、先月に同じグループの研究を紹介した時(http://aasj.jp/news/watch/5404)述べておいたが、 1) フェースブックと違って、テロに関わるサイトも閉鎖されないこと、 2) チェチェンなどテロリスト集団の多い地域をカバーしていること、 などの点から、VKontakteはイスラム過激集団のネット上の活動を研究する目的には欠かせないネットサイトのようだ。
   具体的には2015年2、3月の2ヶ月間の書き込みの分析から、一つの閉じたイスラム国支持グループが抽出され、それぞれのメンバーがどのような役割を演じているのか、ネット上での活動状況から解析している。
   結果は、多数のメンバーとつながり、情報や物の受け渡し、メンバーのリクルートに中核的役割を果たしているのは女性が多いことが明らかになっている。
   また同じ分析を幾つかの個別のグループで行い、女性の重要性と、組織の寿命を調べると、女性の役割が高いほど組織の寿命が長いことを示している。
   この分析結果が、ネットという新しい媒体の登場によって生まれたのか、テロ集団支持組織の一般的特徴かを調べるため、この研究では詳しい活動記録を得ることができる北アイルランドのテロリスト集団アイルランド共和国軍についても分析を行い、テロの激化に呼応して、女性の果たす役割が高まっていることを明らかにしている。
   以上、「政府機関にマークされにくい」、「実行犯として働くことが少ない」などの条件から、テロ集団の活動期間が長くなれば、自然に女性がネットワークの中核を占める傾向があるというのが結論だ。
   読んでなるほどと納得する論文だが、この研究のスポンサーになっている軍に有益でも、一般人の立場から考えると、知ってどうなるという気持が先に来る。ただテロ集団に限らず、ネット分析を通した集団分析が社会学の中心になることを示す意味で、Science Advanceに掲載されたのだろう。今後さらに技術が進んで、テロリストの心理まで分析が可能になれば、科学のトップジャーナルのこのような論文が登場する機会は増えるような気がする。    最後に我が国のテロ集団について記憶をたどって思い出してみると、赤軍派が繰り返したハイジャック事件、オウム真理教の麻原彰晃だけでなく、連合赤軍事件の永田洋子、日本赤軍の重信房子と女性が中心的役割を果たしている事件が多い。これが偶然なのか、必然なのか?学者の見識にだけ頼らない分析が重要だろう。
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