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8月7日:最近の膵臓ガン研究:IV (最終回)膵臓ガンの間質

2016年8月7日
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   一般的にはあまり知られていないが、膵臓ガンを語るときに忘れてならないのが、ガンの発生場所に起こる複雑で強い間質反応だ。間質反応とは、ガンの周りに線維芽細胞が増殖し、コラーゲンが分泌され、その中に様々な炎症細胞や血管が複雑に絡み合った構造ができることを意味する。
  他のガンでもガンが浸潤すると多かれ少なかれ間質反応は起こってくるのだが、膵臓癌では特に強い。その結果組織手術ができず、バイオプシーで診断する場合、腫瘍内から採取された組織にガンが見つからないことすらある。また間質反応が強いと、多くのエネルギーを消費する悪性のガンも、実際には血流に乏しい低酸素状態にさらされているのではと考えられている。また、血流が悪いと薬剤の浸透も悪くなる。さらには、間質の反応によりガン免疫を抑える抑制性T細胞の浸潤が増え、ガン免疫が働きにくいことを示す論文も多く発表されている。
       これらの事実は膵臓ガンの悪性度を含む様々な性質は、間質を除いて考えることは難しいことを示している。
   事実、膵臓ガン組織のガンと間質を一つの単位として遺伝子発現を調べることで膵臓ガンを、1)扁平上皮型、2)成熟型、3)未熟型、4)免疫細胞型の4型に分類でき、扁平上皮型が最も悪性度が高いことが最近報告された(Bailey et al, Nature 531:47, 2016)。面白いのは、変異遺伝子の発現からだけではこのような分類が不可能なことで、膵臓ガンの間質の重要性を物語る。
   「膵臓ガンは進行性」+「膵臓ガンは間質反応が強い」の2つの性質を単純に足し算して間質反応が膵臓ガンを悪性にさせているという考えが長く通説になっていた。事実間質反応の強さが膵臓ガンの予後を決めているというコホート研究成果も発表されている(Erkan et al, Clin Gastroenterol. Hepatol. 6:1155, 2008)。従って、膵臓ガンの制御にはガン自体だけでなく間質反応を制御する必要があると考えられ、研究が続いている。
   最近の例を紹介すると、膵臓ガンの間質には強くビタミンD受容体が発現しており、ビタミンD受容体刺激剤を注射すると、ガンの周りの炎症と、間質反応が強く抑制され、その結果薬剤がガンに取り込まれ、ガンの化学療法の効き目が高まることがソーク研究所から報告されている(Sherman et al, Cell, 80. 2014)。
  またワシントン大学のグループは膵臓ガンの動物モデルで、ガン組織ではFAKと呼ばれる細胞と間質との相互作用を調節する分子の発現が間質反応とよく相関し、この分子をVS-4718と呼ばれるキナーゼ阻害剤で抑制すると、薬剤の効果が高まり、なんと今はやりのチェックポイント治療ではほぼ完全にガンを消滅させられることを報告している(Jiang et al, Nat Med, 22:851, 2016)。
   ここで紹介した薬剤は明日からでも使える薬剤で、私見だが十分考慮に値すると思える。

   ところが最近、ガンの間質反応が必ずしも悪い効果だけでないことを示唆する論文が相次いで報告された。
最初の論文では膵臓ガンが分泌するShhが間質反応の引き金役であるという発見に基づいて、この分子を欠損させた膵臓ガンを作成し、間質反応がShhで誘導されるか調べている。結果は予想通りで、Shh欠損ガンでは間質反応が強く抑えられたが、予想に反してガンの増殖は高まったという結果だ。この効果は血管新生を抑制すると消えるので、間質反応は血管新生を抑制してガンを抑えると結論している(Rhim et al, Cancer Cell 25:735, 2014)。
もう一つの論文では、間質の活性化線維芽細胞を薬剤で除去できるようにしたマウスを使って、ガン増殖に及ぼす線維芽細胞の役割を調べ、線維芽細胞を除去すると膵臓ガンの増殖が亢進することを示している(Cancer cell, 25:719, 2014)。
  臨床的にも、間質反応の強い膵臓ガン患者さんの方が予後が良いという論文もジョンホプキンス大学から出されており(Bever et al, HPB(Oxford), 17:292, 2014)、膵臓ガンの間質反応の意義についてはさらに研究が必要だ。
   ただどちらの意見をとるにせよ、ガンの間質が膵臓ガンの性質が決まるのに大きな役割を演じており、また血管新生や、ガンに対する免疫反応に大きな影響があることは間違いない。
最初紹介したように、これら間質反応を分子レベルで理解することが徐々にできてきた。また、間質の様々な細胞に働き、膵臓ガンの進行を遅らせることが確認された薬剤も増えてきた。この意味で、膵臓ガンの間質反応についての研究は治療に直結している。
   最終回は、「膵臓ガンの間質反応は極めて複雑で、good or badといった2者選択の問題ではない。先入観を排しデータを十分吟味することから、その多面的役割が明らかにされる。幸い、ビタミンDやFAK阻害剤などすぐ臨床で確かめられる成果が集まっている」とまとめておく。
       全体をまとめると
「他のガンと比べても、膵臓ガンは研究者の層も厚く、論文の数も増えてきている。また、紹介したように、やる気になれば明日からでも可能な治療が少しづつ集まってきた印象だ。我が国の研究の現状は把握できていないが、世界レベルでは着実に研究は進化しており、十分期待できる。    一方新薬、リパーパシングを問わず薬剤の治験を推進する必要があるが、それを進める枠組みを早急に整備する必要がある。薬剤が複数の会社にまたがる場合、治験は誰が主体になり、費用はどうするのかなど、問題が多い。私は、膵臓ガンと戦いたいと思う患者さんや市民を中心にこのような枠組みが作られることが重要だと思っている。「パンキャンジャパン」など膵臓ガンには活発に活動する団体が存在する。ぜひ、このような運動が主導する議論が深まることを期待したい。
最後に、今ガン治療で最も注目されている、ガン免疫療法や、チェックポイント阻害治療については複雑すぎて、まだ頭の整理がつかず、今回は割愛した。またいつか、ガンに対する免疫治療として改めてまとめてみたいと思う。
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