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8月15日:低タンパク食とDNAメチレーション(7月29日号Science 掲載論文)

2016年8月15日
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    妊娠中の低栄養が胎児の発生過程で起こるDNAメチル化に影響を及ぼし、生まれた子供がほぼ一生にわたって、代謝などの異常を示すことはよく知られている。特にDutch Famine Studyと呼ばれる、先の大戦終盤にドイツ軍の封鎖による食糧難から深刻な飢えに陥った妊婦さんから生まれた子供たちについての、オランダのコホート研究は有名だ。しかし、この症状の背景にあるメカニズムについて、メチル化異常と一般的に言う以上の説明が得られたわけではない。
   今日紹介するロンドン・メリー女王大学からの論文は、妊娠中の低タンパク質摂取がリボゾームRNA の発現調節機構に影響を及ぼすことを示した研究で7月29日号のScienceに掲載された。タイトルは「Early life nutrition modulates the epigenetic state of specific rDNAgenetic variants in mice (初期の栄養はマウスの特定のrDNA多型のエピジェネティック状態を変化させる)」だ。
   研究ではタンパク質制限(20%)食を受けたC57BL純系妊娠マウスから生まれたオスマウスを対象にメチル化を調べている。期待どおりタンパク質制限により2g程度の体重差が生じる。次にこれらのマウスの精子及び肝臓細胞のメチル化DNAマップを作成し、タンパク質制限により変化する場所の特定を試み、なんと17番染色体上の45sリボゾームをコードするrDNA領域全体にわたって強くメチル化される領域が散在しているのを発見する。
   rDNAは遺伝子が重複して存在しているため、厳密な塩基配列が提供されていないことが多い。このグループは、メチル化により転写が変化することがわかっている上流133pに限定して1000回繰り返して配列を読むという徹底した解析を行い、この場所がタンパク質制限によりメチル化を受ける場所であることを特定している。
   詳細を省いて結果をまとめると、
1) rDNAと共に、この133pの遺伝子発現調節領域も重複しており、純系マウスでもそのコピー数に個体差が存在する。
2) 133pの配列の中の104番目は、それぞれのリピートでC or Aのどちらかに分類される。
3) C型vsA型の比は純系マウスでも個体差がある。
4) 体重と最も相関するのはA型でメチル化されていないプロモーター。すなわち、特異的なメチル化によりA型のp133全体の活性を調節している。
5) このメチル化の影響は、メチル化を調節して転写量を調節するrRNAの発現を調節するノンコーディングRNAを介して行われること。 6) 同じ結果が精子と肝臓の両方で見られること。 になる。    まず驚くのが、純系と言っても大きな個体差がp133領域にあることで、このコピー数は全く個別に増減を繰り返しているようだ。そして、この中のA型の133pプロモーターだけがタンパク質制限によりメチル化され、その結果rDNAのメチル化をガイドするノンコーディングRNAの転写が低下、これが長期間にわたるメチル化パターンの維持に関わり、体重減少につながっているという結論だ。    これまでの論文と比べると、メッセージは明確でまた面白いが、もちろんなぜ体重減少が起こるのか説明するにはまだまだ研究が必要だ。だがこの分野の一つのトレンドを形成するような気がする。
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