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9月12日:RNAのアデニンメチル化の機能(Natureオンライン版掲載論文)

2016年9月12日
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   このホームページでも何回か紹介しているが、ヒト細胞でもアデニンがメチル化されたRNAが存在することが明らかになり、現在はメチル化されたRNAの機能に研究の焦点が当たっている。特に、RNAを直接メチル化する酵素Mettl3が特定されてからは、この分子を欠損させた細胞を使った解析が進んでいる。
   今日紹介するコーネル大学からの論文は、これまでRNAメチル化の機能を調べた研究の中でも、インパクトの大きさと、研究の徹底性では高いレベルにあると思ったので紹介する。タイトルは「m6A RNA methylation promotes XIST-mediated transcriptional repression(m6A RNAメチル化はXISTによる転写抑制を促進する)」だ。
  女性の細胞はX染色体を2本持っているため、そのまま両方のX染色体から遺伝子が発現すると、その遺伝子は男性の2倍量発現してしまう。2倍でもいいのではと思われるかもしれないが、ほとんどの細胞にとっては致命的になることが確認されている。そのため、一本のX染色体がそっくり不活化される。その時最も重要な働きをするのがXISTと呼ばれるRNAで、片方のX染色体をマークして、遺伝子抑制型のクロマチン構造形成の引き金になっている。
  これまで著者らはXISTがアデニンメチル化されていることを示している。この結果をもとに、この研究の著者らは最初から、XIST-RNAのアデニンメチル化がX染色体の不活化に必須であることを証明するのに狙いを定めて研究を進めている。
  まずRNA結合活性を持つRBM15分子は、一方でXIST-RNAに直接結合し、また他方でRNAメチル化活性のあるMETTL3などの分子複合体と直接結合して、XISTのメチル化に関わることを明らかにしている。ただ、RBM15には、ほとんど同じ機能を持つRBM15Bが存在するため、細胞から片方だけを欠損させてもXISTのメチル化は阻害されない。しかし、RBM15とRBM15Bの両方をノックダウンすると、METTL3を欠損させた時と同じで、XISTのメチル化が強く阻害を受ける。そこで、ES細胞でXISTを誘導して遺伝子発現抑制を誘導する実験系で、RBM15/RBM15B両方を欠損させる実験、あるいはMETTL3遺伝子を欠損させる実験を行い、XISTのメチル化を阻害すると、いくらXISTが発現しても、X染色体上の遺伝子発現抑制が起こらないことを明らかにしている。すなわち、XISTがメチル化されないとX染色体不活化が起こらないことを確認している。
   最後に、メチル化されたXISTだけが遺伝子発現抑制に効果があるのかについて、メチル化RNAに結合するタンパクとXISTやそれ以外のメチル化RNAとの結合を詳細に調べ、YTHDC1(DC1)分子だけがメチル化されたXISTに特異的に結合できることを突き止める。そして、DC1とXISTを直接結合させた分子を使って、XISTのメチル化がなくとも、DC1とXISTが結合しておれば、遺伝子を抑制できることを示している。すなわち、XISTのメチル化はDC1を特異的にXISTに結合させる機能を持っていることを示している。    この研究をもう一度まとめると、   「XISTはRBM15及びRBM15Bを仲立ちとしてメチル化作用を持つ分子複合体と結合、メチル化される。このメチル化によって初めてDC1がXISTと結合し、結合部位の遺伝子発現抑制の引き金になる」という結論になる。    一般の方には難しすぎたと思うが、RNA研究のプロの力が存分に発揮された研究だと感心した。
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