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10月13日:卵巣癌に対するPARP阻害剤の効果(10月8日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2016年10月13日
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   現在のところ卵巣癌を根治するためには早期に発見して手術を受けるほかなく、ステージが進んだ症例に使われる化学療法では、多くの場合ガンを叩き切ることが難しい。その意味で、ガンのチェックポイント治療への期待が高まっており、またこれまでの治験で効果が示されている。一方、これまでの抗がん剤による治療をさらに高めることができないか模索も続いている。    今日紹介するコペンハーゲン大学を中心とするヨーロッパ、アメリカ、カナダ107施設が参加する第3相国際治験に関する論文は、従来のプラチナ製剤を中心とする治療にDNA修復に関わるPARP阻害剤を組み合わせることで高い再発予防効果が見られることを示した論文で10月8日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。
   PARPはDNA2本鎖にできたブレークを検出して塩基除去修復機構システムをリクルートする重要な酵素で、抗がん剤などによってできたDNA損傷の修復を妨げる効果があり、抗がん剤の効果を高める新しい治療法として治験が始まっていた。この治験では、すべてのステージの卵巣癌(1or2期を10%前後含むが、ほとんどは3期以上)で、プラチナ製剤による化学療法で反応が見られた患者さんを選び、8週以内にPARP阻害剤ニラパリブ300mg、1日2回投与を続け経過を観察、ガンの進行が抑えられるかを評価している。また、治験途中で亡くなった場合、その原因を問わず再発例として扱っている。治験は偽薬を用いた無作為化二重盲検法で、再発の判断も主治医以外が行うという完全なものだ。
   さらに患者さんを、遺伝的なBRCA遺伝子の変異を持つかどうかで分けて効果を評価している。BRCAが欠損すると相同組み換えがうまくいかないため、この薬剤の効果がより高くなると想定されるためだ。さらに、遺伝的BRCA変異がないケースも、がん細胞の相同組み換え機能を確かめる検査を行い、この機能の有無で薬剤の効果に違いがあるか調べている。すなわち、将来ニラパリブの効果を前もって予測できるかについても検討している。
   結果はめざましいもので、最初からBRCA遺伝子に変異を持つ群でみると、偽薬群では5.5ヶ月で再発したのに対し、21ヶ月再発が起こらない。また、遺伝的BRCA変異がなくとも、相同組み換え機能が欠損しているガンでみると、再発までの期間が偽薬群の3.8ヶ月に対し、12.9ヶ月だ。もちろん、相同組み換え欠損がない場合でも一定の効果があり、偽薬群の3.9ヶ月に対し9.3ヶ月に伸びている。
   一方、 PARP阻害剤はガン特異的ではないため、一般抗がん剤と同じように吐き気、血小板減少症、貧血などは半分以上の患者さんに見られる。また、14%の患者さんが副作用のため服用を中止している。ただ著者らは患者さんの生活の質に関しては、自覚的にも我慢できる範囲だったと結論している。
   ガン特異的ではない薬剤としてはかなり期待できる結果だと思う。特に、プラチナ製剤でDNAに傷をつけ、その修復を止めるという作戦は、論理にかなっている。また、完全とは言えないものの、効果を前もって予測できる検査があることも重要だ。今後、再発ではなく、生存率などさらに詳しいデータを待つ必要があると思うが、難治の卵巣癌にも光が差してきた印象を持つ。期待したい。
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