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10月19日:食べたビフィズス菌の運命(10月12日発行Cell Host & Microbe掲載論文)

2016年10月19日
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    ブルガリアを旅行した時、毎食何らかの形でヨーグルトが使われるのを見て、ヨーグルトがブルガリアの食の伝統として受け継がれているのを実感できた。ただ伝統は、体にいいからと続けられるものではなく、家庭、民族の味として受け継がれてきたのだろう。
   一方、私も10年以上朝食にヨーグルトを食べ続けてきているが、なぜ今食べているヨーグルトを選んだかについては明確な理由があるわけではなく、たまたま目にしたメーカーの宣伝を真に受けて続けているだけで、その効果を本当は確かめられるわけでもないし、また食べた乳酸菌やビフィズス菌が腸内に定着しているかどうかもわからない。
   今日紹介するカナダアルバータ大学からの論文はAH1206と名付けられたビフィズス菌の腸内での定着について調べた研究で10月12日号のCell Host & Microbeに掲載された。タイトルは「Stable engraftment of bifidobacterium longum AH1206 in the human gut depends on individualized features of the resident microbiome(bificobacterium longum AH1206菌の腸内での安定的な定着は個人の常在菌の特性に依存している)」だ。 
   私たちの素朴な疑問に答えようと、この研究では、AH1206というビフィズス菌株を7週間1セット(1週ベースライン、2週ビフィズス菌orプラセーボ投与、4週無投与経過)で投与し、AH1206投与の2群に分け、AH1206が腸内に定着するかまず調べている。結果は、約30%の人では定着し、服用をやめても菌は維持されるが、残りの人では投与を続けても全く定着しないことを明らかにしている。
   後はこの定着に必要な条件を検討している。結果だが、これまで言われてきたように、既存の細菌叢の多様性や絶対量が定着を決めるわけではなく、また逆にAH1206が定着しても、既存の細菌叢を大きく変化させるものではないことも明らかにしている。すなわち、多くの人では服用しても菌は素通りで、また定着しても他の菌に大きな影響はないという結果だ。
   さらに詳しく定着を支持する条件を検索した結果、同じ種類のビフィズス菌がもともと少ない人では定着しやすいこと、また、すでにビフィズス菌量が十分ある人でも、細菌叢全体が発現している遺伝子がAH1206が発現している遺伝子を欠乏している場合、定着できることを示している。わかりやすく言うと、遺伝子発現から見て既存の細菌叢にとってAH1206がユニークな場合は受け入れられるが、同じ特徴を持つ細菌が既に存在する場合は定着できないという結論だ。この定着条件になる遺伝子の多くは糖鎖の代謝経路に関わることから、服用した菌のニッチを作るのに必要だと結論している。
   皆が知りたいと思っていた問題を取り上げ、結論も十分ありそうな話で、納得できる。
   この論文を読むと、プロバイオといっても役にたつ菌を飲めばいいという話でないことがわかる。効果を調べる前に、まず定着するかどうか調べることが必須で、今後それぞれのプロバイオメーカーも定着について2ヶ月程度追跡したデータを示してほしいものだ。
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