1月18日:全能性のES/iPS(1月12日号Science掲載論文)
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1月18日:全能性のES/iPS(1月12日号Science掲載論文)

2017年1月18日
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    Natureに掲載された2報の小保方論文を見たとき、STAPがES細胞と決定的に異なると思ったのは、若山さんがlast authorのletter の方の論文の最初の図に、STAPが胎盤と胎児の両方に分化することが示されていたからだ。私が記憶する限り、このデータは、最初2年ほど前に見せてもらった論文のドラフトにはなかったと思う。この結果は単純にES細胞を注射する実験では得られるはずがなく、当事者からの説明ができていない点だと思っている。
   一般的にES細胞やiPS細胞は胎盤などの胚外組織に分化できないため、多能性(Pluripotent)であっても全能(Totipotent)ではない。このため、この差を生む分子メカニズムは多能性の研究にとって重要な課題だった。
   今日紹介するカリフォルニア大学バークレー校からの論文は、この違いが一つのマイクロRNA、miR-34aによって決められている可能性を示す研究で1月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「Deficiency of microRNA miR-34a expands cell fate potential in pluripotent stem cells(miR-34マイクロRNAの欠損は多能性幹細胞の分化能を拡大する)」だ。
   どうもこの発見は、研究の過程でたまたま見つかり、著者らも驚いたといったたぐいだ。もともとmiR-34aをノックアウトすると、iPSの樹立効率が上がることが知られており、これについて深掘りしていたのだろう。ところが、miR-34a欠損iPSからできたテラトーマの中に、胎盤細胞が存在していることに気づき、また同じことは試験管内の培養でも再現できることを発見する。そこで、miR-34a欠損細胞を胚盤胞に移植する実験を行い、まず普通なら内部細胞塊だけに組み込まれるES細胞が、胚外の栄養膜細胞にも組み込まれること、そして分化した胎盤にも注入細胞由来の細胞が見つかることを示している。すなわち、全能性を獲得したES/iPSが樹立されたことになる。
  次に、この全能性が獲得された分子メカニズムの解析に進んでいるが、遺伝子発現の比較では内因性のレトロウイルスMERVLのヒストン修飾がオン型に変わり、ウイルス分子が発現していること以外に明確な違いを見出すことができなかったようだ。ただ、この発現は正常マウス発生でも、全能性を持つ細胞だけに見られることから、たしかにmiR-34a欠損と全能性とが一致することは明確だ。そこでMERVLの発現誘導のメカニズムを探索し、miR-34aの標的GATA2がMERVLの発現調節の必要十分条件であることを示している。
   残念ながら、なぜ全能性が獲得できたのかの完全な答えは得られていない。しかし、この研究としては単一のmiR-34a欠損細胞が両方の組織に組み込まれているという結果で十分なような気がする。この分野にはプロが多くいる。納得いく説明があっという間に出てくるだろう。
カテゴリ:論文ウォッチ