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3月8日:試験管内での胚発生再現(Scienceオンライン掲載論文)

2017年3月8日
    マウスや人の受精卵は、自分の力で分裂し、胚と胚外組織に分化した胚盤胞と呼ばれる段階まで進むことができる。この段階で胚を壊して培養すると、全ての組織へと分化できるES細胞が樹立できる。しかし、このES細胞は胚外組織の元になるトロフォブラストに分化できないことが多い。代わりに同じ段階の胚からトロフォブラストに分化が限定された細胞株(TS細胞)を樹立することができる。
   実際の胚発生では、胚盤胞内の細胞が増殖しながら、内部細胞塊がエピブラストと原始内胚葉の2層上皮を形成するegg cylinderが形成するとともに、胚と接しているトロフォブラストは胚体外外胚葉と呼ばれる上皮構造を形成する。
   この初期胚分化をES細胞から再現しようと様々な試みが行われてきたが、ES細胞からトロフォブラストが形成されないため、embryoid bodyと呼ばれる球状構造を作らせるのが精一杯だった。
   今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は早い段階でES細胞をTS細胞と結合させることで実際の胚発生により近い胚を試験管内で作れないか調べた研究でScienceオンライン版に掲載された(Harrison et al, Science 10.1126/science.aal1810 )。タイトルは「Assembly of embryonic extra-embryonic stem cells to mimic embryogenesis in vitro(胚性幹細胞と胚外幹細胞を合わせると試験管内で胚発生を再現する)」だ。
   ES細胞もTS細胞もずいぶん前に樹立されているのに、なぜこのような実験が行われなかったのが不思議だ。おそらく、この分野の研究者は、胚外細胞と胚細胞を合わせて、子宮内に移植して完全に細胞株からマウスを作ることを目的に実験を進めていたのだろう。この研究はそこまで高望みせず、ESとTSを結合させた後、マトリジェルと呼ばれる3次元マトリックス内で発生させ、TSを組み合わせることと、できないことを整理している堅実な研究だ。
   結果だが、思いの外実際の胚発生に近い過程を試験管内で再現できている。順を追って見ていくと、
1) 自己組織化で、胚と胚外の分離が起こり、それぞれの細胞塊は上皮化することで、まず胚内、そして胚外に空洞が形成される。これにより、胚内ではegg cylinder様の構造、胚外では羊膜様の構造へ発展する。
2) Nodal分子を介する胚内組織、胚外組織の相互作用が、上記の構造形成に必要。Nodal分子を阻害すると空洞ができない。
3) 中胚葉誘導の最初の分子brachurryの発現が胚内上皮で出来たシリンダーの片方にのみ見られる様になる。すなわち、胚の不均等性が生まれる。
4) 胚外、胚内の境に始原生殖細胞が発生する。
    という過程が、再現できている。しかし、最も肝心の原始内胚葉を持ったシリンダー形成が出来ていない。このためか、brachurry発現の非対称性は再現できても、原条のようなしっかりした構造はまだできておらず、また原腸陥入の再現も出来ていないと言える。
   とは言え、できないことが整理されることで、目標が明確になる。もちろん原始内胚葉とエピブラストを持ったシリンダー構造をどう形成させるかが次の課題になる。そろそろ、細胞だけから個体が生まれる可能性を意識しておいても良さそうだ。
カテゴリ:論文ウォッチ
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