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3月19日:失語症治療プログラムの治験(The Lancetオンライン版掲載論文)

2017年3月19日
    大学時代、臨床実習で最も印象深かったのが、失語症の患者さんの診察を見学した経験だ。「これはなんですか」と問われた時、指し示されたものとは全く異なる単語が出てしまう。また、患者さんもそれがわかっていてもどかしそうな様子を見ると、言語を使うということの複雑さを知ると同時に、自分が言葉を失ったことを想像して恐怖を覚えた。その後一度だけ、友人の奥さんから、失語のリハビリの専門家がいるかどうか相談を受けたことがある。残念ながら唯一私が知っていた先生は結局現役を退いた後で、お役に立てなかった。ただ、言葉を取り戻す体系的なリハビリ法がどの程度完成しているのか気になったが、そのままこの疑問は忘れていた。
   今日紹介するドイツアーヘン大学を中心とするグループの論文は失語症治療プログラムの効果について検証した研究で、タイトルを見てこれまでの様々な思い出が浮かんできた。The Lancetオンライン版に掲載された論文で、タイトルは「Intensive speech and language therapy in patients with chronic aphasia after stroke: a randomized open-label blinded-endopoint, controlled trial in health care setting(脳卒中後の失語症患者さんの集中会話・言語治療:保健でカバー可能な状況を想定した無作為化、非盲検、評価は盲検、対照臨床試験)」だ。
   失語症プログラムの無作為化治験とは大変な力作だと読み始めたが、結局読んだ後も何が行われ、治療効果は高いのかどうか、よくわからないで終わった。
   まず治療内容だが、治療プログラムを作成した研究者から訓練を受けたセラピストが週10時間、個別訓練を行い、また5時間グループセッションを行うコースを、最低3週間続ける。コントロールは、治療開始を3週間遅らせたグループを設定し、時間的ズレを利用して効果の差を見ている。対象は全員、発作後30ヶ月程度経過して、言葉が戻らなかった人だが、運動性(ブロカ)、感覚性(ウェルニッケ)、両方合併した重症性、健忘失語まで様々な症状が一定率で存在しており、一つのプログラムで治療していいのか素人ながら気になる。
   それ以外は患者さんの置かれた状況をよく勘案した治験だ。例えば、コントロールは治療開始を遅らせて、最終的には治療を受けれるように計画しているし、3週間という治療期間は保険でカバーされる期間にあわしている。
   結果だが、失語の評価に使われるANELTスコアを使って点数評価し、コントロールと比べるとポイントで3ポイント改善したことが強調されている。残念ながらどのタイプの失語に高い効果があるのかなどについては明確ではない。そもそも3ポイントの改善がどれほどのものか、素人にはわからない。点数上の改善は小さくとも、日常生活では大きな変化であることが書かれているが、患者さん自身の評価も示してほしいなと思った。
   失語は職場復帰を考えると最も深刻な症状だ。卒中後細胞自体の回復がないことを考えると、訓練しか治療法はない。患者さんたちも有効な方法を首を長くして待っている。その意味で、論文としてはわかりにくいとはいえ、無作為化対照試験を行った意義は大きいと思う。患者さんには、標準治療のためのスタートラインに立つことができたとを伝えたい。
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