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4月21日:子育て行動の多様化に関わる遺伝的背景(Natureオンライン版掲載論文)

2017年4月21日
   鳥類や哺乳類では、子育てが種の保存に必須の行動になっている。子供が独立できるようになるまで親が甲斐甲斐しく世話をやく野生動物の行動をみて、親の愛に感動するが、この時子供に愛を傾ける「親」の内容は大きく異なる。
    子育てはもっぱら父親という種も存在するが、多くの場合やはり主体は母親になる。また、主役が母親でも、父親の協力形態には大きな差がある。この差の一つに、social monogamyとgenetic monogamyがある。Social monogamyではオスとメスがペアを形成して子育てをするのだが、わかりやすく言えば子育てペアが子作りペアと必ずしも一致しない。一方genetic monogamyはこれが完全に一致している。
   今日紹介するハーバード大学からの論文はこのsocial monogamyとgenetic monogamyの違いの多様性が生まれる遺伝的背景についての研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「The genetic basis of parental care evolution in monogamous mice(一夫一婦型のマウスでの子育て形態の進化の遺伝的背景)」だ。
   これまでsocialとgenetic monogamyのような夫婦形態の多様性についてはPrairie Voleと呼ばれるハタネズミが用いられることが多かった。この研究から、オキシトシンやバソプレッシンと夫婦の絆が明らかになっていた。この研究も基本的には同じ方向で計画されているが、組換え体の作成という古典的遺伝学的手法と、ゲノム配列決定を組み合わせて、より体系的に研究している点が新しい。
   オスメス掛け合わせると言っても、本当は簡単でない。野生のハタネズミを実験室に慣らすためには途方もない時間がかかるだろう。この研究ではハタネズミの代わりに、すでに感染症研究で実験室で繁殖が行なわれており、夫婦の絆の強さが明らかに異なる行動を示す2種類のシロアシネズミ属、P.maniculatusとP.polionotusを選び、用いている。両者の夫婦形態は異なっているが、掛け合わせが可能であることが重要な点だ。
   まずそれぞれの子育て行動の違いを、巣作り、リッキング(子供を舐める)、身を寄せあう性質、子供を集める習性に分けて調べると、子供を集める習性以外は、両者は大きく異なり、P.maniculatusはオスメスとも子育てがぞんざいだ。この違いが、親の行動を学習した結果でないこと、すなわち遺伝的形質であることを確認した後、両者を掛け合わせたF1を作成、次にF1同士を掛け合わせて769匹のF2世代を作成し、それぞれの行動パターンの分布を調べている。
  結果は期待通りで、先に分類した行動パターンを遺伝的に分離することが可能になった。同時に、舐めたり、寄り添う行動は遺伝的相関が高いが、巣作りだけは完全に独立した遺伝形式を取ることも明らかに成った。
   後は定法に従って、分離した形質と相関を示すゲノム領域を特定することで、子育て時の行動パターンの違いに関わる遺伝子座を特定することが期待され、実際12個のQTLと呼ばれる形質に相関した領域を特定している。
   次はそれぞれの領域で行動変化に関わる遺伝子を特定することになるが、全ての遺伝子変化を特定するには時間がかかるだろう。この研究では、第4染色体上のQTLとして特定された遺伝子バソプレシンの発現が相関していること、またバソプレシン投与により巣作りが大きく影響されるという、常識的な結論を示して、この論文を終えている。
   今後は、今回QTLとして特定した領域で行動に直接関わる変異を一つ一つ特定し、その進化を探るという大変な仕事が残っている。ただ、すでに実験室で飼われていると言っても、気性は荒く、おそらく違う行動パターンを取るネズミ同士の繁殖は簡単でないだろうと想像する(野生ネズミの繁殖を勧められた故森脇先生を思い出す)。このような地道な仕事を、ハーバード大学、しかもハワードヒューズ財団が支援し続けているのを見て、我が国の役所も、科学振興を支援するための心構えとは何か学んで欲しいと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ
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