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6月9日:エクソゾームを治療に使う(Natureオンライン版掲載論文)

2017年6月9日
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   エクソゾームとは細胞から出芽するように飛び出して、細胞外に分泌される小胞で、血中で安定であること、また元の細胞が発現している様々な分子を含んでいることから、ガンの診断に使えないか研究が行われている。分泌されたエクソゾームは離れた場所の細胞に取り込まれていることもわかっている。エクソゾームをミサイルのように使ってがん細胞が周りの環境を自分に都合のいいようにリプログラムしている可能性を調べる研究もずいぶん行われている。
   しかし、今日紹介するテキサス・MDアンダーソンガン研究所からの論文のように、エクソゾームをガンの治療に使おうとする試みはそうないと思う。タイトルは「Exosomes facilitate therapeutic targeting of oncogenic KRAS in pancreatic cancer(エクソゾームは膵臓癌のドライバーKRAS標的治療を可能にする)」だ。
   この研究の目的は単純明快だ。膵臓癌のドライバー遺伝子KRASを抑制するためにはアンチセンスRNAiを用い、それを膵臓癌へ送るためにエクソゾームが使えるかに絞って研究が行われている。
   これまでRNAiを少し安定化して直接注射する方法はすでに臨床でも行われているが、まずほとんどが肝臓にトラップされるため、他の臓器への応用は難しい。これを解決しようと、リポソームと呼ばれる人工小胞にRNAiなどを運ばせる方法も開発されているが、肝臓にトラップされる問題は解決できていなかった。
   この研究ではエクソゾームが血中で安定に維持されることに注目し、この原因がエクソゾームがCD47と呼ばれる分子を発現しているからではないかと考えた。CD47はマクロファージに食べられるのを防ぐ「don’t eat me signal」で、この分子がないと細胞や、その断片はマクロファージに掃除されてしまう。
   そこでまずヒトの線維芽細胞から調整したエクソゾームを調べると、CD47を発現しており、腹腔内に注射しても循環に入って様々な臓器に分布する。しかし、リポソームはすぐにマクロファージに掃除されてしまう。さらに、CD47がノックアウトされたマウスからエクソゾームを調整すると、リポソームと同じでマクロファージによって除去されることがわかった。
   期待通り、エクソゾームが血中で安定していることを確認した後、人間の膵臓癌細胞を注射したマウスをモデルにエクソゾーム/KRAS-RNAiでの治療実験を行うと、膵臓癌にエクソゾームが取り込まれ、高い治療効果が得られる。この結果は治療のためには都合がいいが、エクソゾーム自体はどの細胞に取り込まれてもいいはずで、次になぜ膵臓癌に対する治療効果が高いのかを調べている。この結果、KRASを発現する細胞では、ピノサイトーシスが促進してエクソゾームの取り込みが上昇していると結論している。後は、ガンが進行した時期に治療を始めるモデルで、進行したガンでも転移を抑制し、生存期間を伸ばせることを示している。
   実験は単純で、ぜひ人間でも試してほしいと思う。ただ、臨床に応用するとなるとエクソゾームの調整にどの程度の費用がかかるのかなど、心配の種はまだまだ多い。
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