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7月11日:Rett症候群治療可能性(Disease Model and Mechanism)

2017年7月11日
Rett症候群はX染色体上にコードされているMECP2遺伝子の欠損で、完全欠損は胎生致死になるため、ほとんどの場合X染色体が2本ある女児に発症する。この病気については、Rett症候群の娘さんを持つお父さん、谷岡哲次さんが代表理事をなさっている認定NPO法人レット症候群支援機構のサイトに(http://www.npo-rett.jp/rett_kenkyu.html)様々な情報が記載されている。谷岡さんは馬力のある方で、NPO法人を立ち上げるだけでも大変なのに、寄付税制の恩恵をフルに活かせる認定NPOとして認可を済ませた数少ない患者さんの支援団体になっている。そして今年は、内外からRett症候群の研究者を招いた国際シンポジウムを開催され、患者さんと専門家の交流の重要性を示された。おそらく、日本の患者さん団体のリーダー的存在として今後も活躍されることが期待される。
   尊敬する谷岡さんについての前置きが長くなったが、今日紹介する論文はマウスのRett症候群モデルを用いて症状を抑える治療薬候補を発見したという研究で7月号のDisease Model and Mechanismに掲載された。タイトルは「A small-molecule TrkB ligand restores hippocampal synaptic plasticity and object location memory in Rett syndrome mice(TrkBのリガンドとして働く小分子化合物はRett症候群モデルマウスの海馬シナプスの可塑性と、ものの位置を覚える記憶の障害を回復させる)」だ。
   Rett症候群を根治するためには、生まれる前にMECP2遺伝子を正常化するしかなく、この可能性については現在クリスパーなどを用いる遺伝子修復方法の開発が進んでいる。一方、MECP2の作用を完全に理解できているわけではないが、この欠損により神経細胞で起こってくる分子発現の異常が明らかになることで、それを標的にした薬剤の開発も並行して進んでいる。
   中でもRett症候群ではBDNFと呼ばれる神経増殖因子の発現が低下していること、RettモデルマウスにBDNFを過剰発現させると一部の症状が回復することから標的として注目を集めている。
この研究ではまず、4ヶ月齢のマウスにBDNF受容体であるTrkBを活性化するLM22A-4を1日2回1−2ヶ月投与して、自発的運動検査、運動機能検査、海馬の機能を図る場所記憶検査全てで活性が改善することを示している。不思議なことに、同じ薬が正常マウスにはほとんど効果がないことで、治療する側に立てばこれほど好都合なことはない
   このモデルでの投与効果のメカニズムについて、あとはフレッシュな脳の切片を用いたメカニズム解析を行い、LM22A-4投与によりRettモデルマウス海馬の過興奮を抑え、EPSCと呼ばれるポストシナプス電流を抑えることで神経機能を改善しているのではと結論している。
   この試験管内実験系でもLM22A-4がRett症候群の海馬の反応のみを改善することが確認され、MECP2遺伝子異常のない正常神経細胞にはほとんど効果がないことがわかっている。この理由を完全に理解できているわけではないが、逆に本来のリガンドであるBDNF を投与した場合他は、様々な副作用が考えられるため、この性質は重要だ。    以上まとめると、まだ完全にメカニズムが明らかになったとは言い難いが、LM22A-4はTrkBシグナルの一部にだけ作用を持ち、薬剤として病気にのみ選択性が存在するという観点から大いに期待できる薬剤で、LM22A-4あるいはこれに由来するさらに至適化された化合物の早期の臨床応用を望む。
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