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7月12日:手足の長さを決めているGdf5調節領域と人類進化(Nature Genetics オンライン版掲載論文)

2017年7月12日
背の高さに関わる遺伝背景を探るためのゲノム解析はこれまでなんども論文が出ている。中でも注目されたのはTGFβ遺伝子ファミリーに属するGDF5遺伝子領域の一塩基多型(SNP)だろう。マウスのGDF5欠損は手足の長さが短縮し、またヒトでもGDF5突然変異により手足が短縮することが確認されている。従って、この遺伝子の発現量を調節する変異は、人間や民族の手足の長さを決める重要な領域になっていると推察される。ゲノム研究の結果、GDF5上流に背の高さを決めるSNPが特定された。面白いことに、横浜理研のゲノムグループにより、高い確率で変形性関節症になるSNPが同じ部位に特定され、変形性関節炎と背の高さが関わるのではと一時議論になった。ただ、SNPが遺伝子調節領域となると、因果関係を確立することは簡単でない。
   今日紹介するマウス遺伝解析のメッカ・ジャクソン研究所からの論文はオーソドックスな手法を用いてマウスGDF5調節領域を特定した上で、ヒトのSNPと対応させて、因果関係がはっきりしたSNPを特定しようとした研究でNature Geneticsオンライン版に掲載された。タイトルは「Ancient selection for derived alleles at a GDF5 enhancer influencing human growth and osteoarthritis risk(ヒトの成長と変形性関節炎のリスクに影響するGDF5遺伝子座は人類史の初期から選択されてきた)」だ。
  この研究ではGDF5上流、下流の大きな領域をカバーするBACベクターをマウス受精卵に注射する方法で、骨発生過程でGDF5遺伝子発現を調節する領域を探索し、これまでの結果とは全く異なる、GDF5遺伝子下流に強い調節領域が存在することを特定している。さらにこの発見を機能的に確かめるため、GDF5ノックアウトマウスに異なる発現調節領域で支配されるGDF5遺伝子を導入する実験により、確かに上流調節領域ではなく、下流調節領域に支配されるGDF5を入れたときだけ完全なレスキューが可能であることを示している。
  後は下流調節領域を絞り込むため、トランスジェニックマウスを使ったスクリーニングを行い、GROW1A,Bと名付けた2領域を特定している。
  次に、GROW1領域に対応するヒトゲノム領域をデータベースから調べ、GROW1B内に頻度の高い2種類(アデニンとグアニン)のSNPが存在することを発見する。圧巻は、それぞれのSNPを持つ調節領域をもつトランスジェニックマウスを作成し、アデニン型のSNPのほうが遺伝子発現量が低いことを示している。
   こうして遺伝子発現量という因果関係をはっきりさせたSNPについて全世界のヒトゲノムを調べ、発現量が低いアデニン型はアジアや中米に多く分布し、日本人もそれに入ること、一方発現量の高いグアニン型は南部アフリカ(なんと今旅行に来ている)の部族に多く分布することを示している。さらに、ネアンデルタール人やデニソーワ人などの古代人類もアデニン型を持っていることも明らかにし、人類進化と対応付けているが詳細は省く。
   SNPと遺伝子発現の因果関係がはっきりしているとはいえ、この部位がどこまで人類の骨格の多様性に関わってきたかはまだよくわからない。インカや南アジアに100%アデニン型が分布している民族があることから、間違いなく影響していると思うが、このSNP一つで全てが決まっていないことも確かだ。今後変形性関節炎と絡めてさらに研究を進める必要があるだろう。
   いずれにせよ、これまで進めれらてきたマウスでの研究が、そのままヒトの遺伝子研究を助けるいい例だと思って紹介した。
カテゴリ:論文ウォッチ
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