7月20日:稀なアルツハイマー病リスク遺伝子から見えてくるミクログリアと自然免疫の関わり(Nature Geneticsオンライン版掲載論文)
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7月20日:稀なアルツハイマー病リスク遺伝子から見えてくるミクログリアと自然免疫の関わり(Nature Geneticsオンライン版掲載論文)

2017年7月20日
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アルツハイマー病のリスク遺伝子についてはこれまで多くの研究が行われており、少なくとも30以上のリスク遺伝子座が見つかっている。これに加えて、最近は多くの患者さんのDNA配列解読が進み、稀な一部の人だけに関わるリスク遺伝子が特定されるようになってきた。
   今日紹介する米、蘭、英3カ国281医療施設が関わる共同論文は、翻訳される遺伝子に焦点を絞ってリスク変異を探索した大規模研究でNature Geneticsに掲載されている。タイトルは「Rare coding variants in PLCG, ABI3 and TREM2 implicate microglial-mediated innate immuneity in Alzheimer’s disease (翻訳遺伝子の稀な変異がアルツハイマー病で特定されるPLCG2, ABI3, TREM2遺伝子はともにアルツハイマー病にミクログリアを介する自然免疫系の関わりを示す)」だ。
   この研究は高齢になってから発症するアルツハイマー病、すなわちこれまで原因になる遺伝子がほとんど分かっていない症例約16000人を、正常例約18000人と、エクソームの配列を調べている。この時、従来のようにそのままエクソーム配列を調べるのではなく、イルミナが提供しているこれまで知られたエクソーム変異を集めたDNAチップを用いている。配列を処理するインフォーマティックスの煩雑さを考えると、大規模研究は今後この方法が中心になっていくように思える。
   第一段階で43候補遺伝子を特定、次にこの候補に絞ってさらに因果性を調べ最終的に、PLCγ2、ABI3、TREM2の3遺伝子内に、因果性がはっきりした稀な変異遺伝子座を特定することに成功している。
   研究はこれだけで、あとはインフォーマティックスでこれらの遺伝子のアルツハイマー病への関わりを推察している。また、それぞれの変異遺伝子座の生理学的活性についても、実験的に確かめてはいない。
   ただ、今回特定された3種類の遺伝子の全てが、いわゆる自然免疫に関わる重要な分子であることが既に知られている分子である点が重要視されている。PLCγ2は免疫系のシグナル伝達分子として最も研究されてきた分子だし、ABI3はインターフェロンシグナルを媒介する転写因子だ。そしてTREM2はミクログリアのシグナル分子としては最もよく研究されてきた分子だ。
   これら3種が、全くバイアスのかかっていないリスク遺伝子検索から上がってきたことがこの研究のハイライトで、今後様々なモデル実験系でこれらのシグナルとアルツハイマー病の関わりが調べられるだろう。また脳内では、これらのシグナルはミクログリアを介して働いており、現在急速に進んでいるアルツハイマー病に関わるミクログリア細胞の役割についての研究にも重要な結果だと思う。
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