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12月21日:糸球体硬化症の新しい治療の可能性(12月8日号Science掲載論文)

2017年12月21日
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巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)と長い名前の付いたいかにも恐ろしげな腎臓疾患がある。高度のタンパク尿を特徴とするネフローゼと診断されていた患者さんの中に、一般的なネフローゼ治療に反応せず、進行を続ける、言わば難治性ネフローゼとも言える腎臓病だ。バイオプシーによる組織検査で糸球体の血管を覆うポドサイトの脱落が認められると、確定診断することができる。残念ながら確実な治療法はなく、8割近くが5年で腎不全に陥る悪性の腎障害だ。

最近になって遺伝子検査が進んだおかげで、一部の症例にはRac1の機能に影響を及ぼす様々な遺伝子変異により発生することがわかり、遺伝子機能の解析から治療の手がかりがつかめるのではと期待されていた。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、腎硬化症モデルラットで、カチオンチャンネルの一つTRPC5の阻害により原因を問わずポドサイトの脱落を防げる可能性を示した重要な研究で12月8日号のScienceに掲載された。タイトルは「A small molecule inhibitor of TRPC5 ion channels suppresses progressive kidney disease in animal model(TRPC5 イオンチャンネルの低分子阻害剤は動物モデルの進行性腎臓病を抑制できる)」だ。

この研究では細胞骨格分子の突然変異によるFSGSではポドサイトでRac1が活性化され、その結果小胞体の細胞膜への融合が高まり、ポドサイトがTRPC5を発現することに着目している。すなわち、この経路がポドサイトの喪失に関わりFSGSの症状の原因になっていると仮定して研究を進めている。

そこで、アンギオポイエチン受容体をポドサイトに発現させた腎硬化症モデルラットを作成し、TRPC5のみがFSGSモデルのポドサイトで活性化されるイオンチャンネルで、このチャンネルが開いてカルシウムイオンを通過させることが、FSGSの進行と相関することを突き止める。

次にTRPC5阻害剤ML201がポドサイトのカルシウム流入を阻害することを確認した後、腎臓症状を止めることができるか調べ、腎不全が完全に進んでいない時期なら、初期だけでなく、進行期でもタンパク尿を抑え、ポドサイトの糸球体血管からの剥離を抑えることができることを明らかにする。

この結果を受けて、よりTRPC5への特異性の高い低分子化合物を探索し、最終的に特異性の高いAC1903を特定し、この分子がRac1-TRPC5シグナルを遮断し、ポドサイトの遺伝子発現を変化させることで細胞死を抑制し、FSGSの進行を止めることを確認している。

最後に、この薬剤が他の腎症モデルの治療に適用できるか高血圧性腎症のモデルラットを用いて調べ、AC1903が一定程度だがポドサイトの細胞死を防ぎ、タンパク尿を抑制できることを示している。

前臨床試験としては大成功で、今後これまでステロイドホルモン以外にほとんど治療法がなかった人間、特に小児のFSGSに効果があるか臨床試験が開始されるだろう。ラットでは目立つ副作用はなかったが、チャンネル阻害剤なので、効果と副作用をしっかり調べる臨床治験を行って欲しい。しかし、イオンチャンネル阻害で、FSGSが治るとは、ほとんど想像だにできなかった。期待したい。
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