12月27日:電流を流してガンの増殖を抑える(12月19日号米国医師会雑誌掲載論文)
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12月27日:電流を流してガンの増殖を抑える(12月19日号米国医師会雑誌掲載論文)

2017年12月27日
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腫瘍を物理的な刺激で殺す試みはこれまでも様々な方法が開発されてきた。おそらく最もポピュラーな治療は、マイクロウェーブを腫瘍に照射するガンの温熱療法で、現状については把握していないが、多くの医療機関で利用されていると思う。今日紹介するのも、ガンの物理学的治療法の一つになると思うが、なんと弱い電流を用いる方法だ。ドイツで開発され、現在はNovacureという会社により製品化され、中皮腫、肺がん、膵臓癌など多くの難治性のガンの治験を行っている。

今日紹介するのは、脳腫瘍の中では予後が極めて悪いグリオブラストーマに、頭蓋の外から持続的に弱い電場をかけ続けて細胞死を誘導するという治療法で、電場でここまでできるのかと驚いた。論文は12月19日発行の米国医師会雑誌に掲載され、タイトルは「Effect of tumor treating fields plus maintenance temozolomide vs maintenance Temozolomide alone on survival in patients with glioblastoma: a randomized clinical trial(グリオブラストーマ患者さんのTumor treting fuieldとTemozolomideの維持療法組み合わせと、Tamozolomide単独維持療法の比較:無作為臨床治験)」だ。

この論文を読むまで、Tumor Treating Fields(TTF)治療については全く知らなかったが、この治療法を提供しているNovacure社の説明を見ると、脳腫瘍の場合頭蓋の外から縦横方向の異なる電流を交互に流すことで、細胞分裂中のチュブリンの重合を阻害するという原理に基づいた治療法のようだ。もちろんチュブリンに対する薬剤は現在も数多くあるが、局所に電場をかけるという点で、腫瘍特異的に分裂を止め、最終的に細胞死を誘導できるという原理だ。

この研究では、予後の極めて悪いグリオブラストーマの患者さんについて、できるだけ腫瘍を切除した後、テモゾロミドを用いた維持療法に入る際、無作為的にTTFを使用する群と、使用しない群に分けて、両者を比べている。勝者は、1日18時間というから、1日中電場をかけ続けていることになる。もちろんできる限り長く装着を続ける

結果だが、がんの再発を抑える期間が2.7ヶ月延長し、生存期間も4.9ヶ月延長できたという結果だ。一方副作用のほとんどはテモゾロミドによるもので、電極を設置した部位の皮膚の刺激症状が半分以上に見られるのが、TTF特異的症状として明らかになった。残念ながら、がんを完全に殺すという治療法ではなさそうだ。

全生存期間で、4.9ヶ月の延長を長いと考えるか、短いと考えるかは難しいが、治療法がほとんどないグリオブラストーマが対象で副作用がほとんどないという利点を考えると、試す価値はあるように思った。また、他の薬剤との組み合わせで、より高い効果が得られる可能性もある。重要なのは、根治しないのを当たり前と思わないで、なぜ抵抗して増殖を続けるガン細胞が存在できるのか明らかにすることだろう。いずれにせよ、治験としては成功と言える。
カテゴリ:論文ウォッチ