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1月5日:オナガザル科スーティーマンガベイのエイズウイルス抵抗性のメカニズム(Natureオンライン版掲載論文)

2018年1月5日
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私が卒業した1973年には、エイズは存在しなかった。ただ、1980年代になって、ゲイに多い後天的免疫不全病が報告され、ウイルス病として特定されるまでは様々な研究が行われていたのを覚えている。もっとも印象に残っているのは、ドイツに留学している時、マウスの肛門に精子を注入すると免疫不全が誘導されるという論文だ。私自身まだエイズのことを聞いたことがなかった時で、不思議な実験をする人がいるのだと思った。

その後、エイズウイルスが特定されてから、ではどうして急にこのようなウイルスが現れたのかが大問題になった。結局エイズウイルスの起源、サル免疫不全ウイルスに感染していたチンパンジーを食用のために殺した人間が感染し、体内でエイズウイルスができ、そこから広がったことが示された。さらにチンパンジーの感染源が探索され、オナガザル科のスーティーマンガベイなど小型のサルを襲って食べたチンパンジーに感染、その中で2種類のウイルスが組み換えを起こしてサル免疫不全ウイルスが出来上がったことが明らかにされた。

今日紹介する論文はこのエイズ起源についてのシナリオの延長と言える研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Sooty mangabey genome sequence provides insight into AIDS resistance in natural SIV host(スーティーマンガベイのゲノム配列は自然のサル免疫不全ウイルス宿主のエイズ抵抗性にヒントを提供する)」だ。

チンパンジーがスーティマンガベイ(以後マンガベイ)を食べてサル免疫不全ウイルスSIVに感染した理由の一つに、マンガベイではウイルスに感染しても病気が発症しないため、ウイルスが蔓延し、キャリアになっていたことがある。事実、エイズウイルスを感染させてもマンガベイはCD4陽性細胞は正常、低いレベルだがウイルスを作り続けることことが知られている。

この研究は、なぜマンガベイは発病しないのか、ゲノム配列の解析からその解明を試みている。

まずマンガベイのゲノムを解読し、エイズを発症するアカゲザルのゲノムと比較、免疫系に関わる遺伝子を中心に違いを調べて、可能性のある34分子の違いを特定している。しかし、エイズ感染に関わるCD4やCCR5については違いを認めていない。そこで、配列上最も大きな違いが認められた接着分子ICAM-2と、自然免疫に関わるTLR-4に絞ってさらに追求している。

まずICAM-2はマンガベイではリンパ球の表面に出ていないことを突き止め、配列の違いが細胞表面への発現の違いに反映することを明らかにしている(残念ながら、ではこれがウイルス抵抗性にどう関わるかはこの研究では明らかになっていない)。

TLR-4のC末端の配列が感染しないマンガベイでは大きく異なっている。そして、LPS刺激によるNFκBの活性化がマンガベイのTLR-4では強く低下していることを明らかにしている。

そして、この配列はウイルスキャリアとして知られ、またチンパンジーの餌になる4種類のサルで保存されていることも確認している。面白いのは、この違いが全体の進化の系統樹とは別に進んでいることで、何らかの理由で抵抗性のサルが別個に進化してきた可能性が高い。この差を生み出した環境要因が何か、面白い問題が残された。

結果は以上で、なぜマンガベイがキャリアになるのかは明確ではない。しかし、キャリアになるには感染し、ウイルスを作り続ける細胞が必要になる。その意味で、CD4やCCR5が正常であるのも当然だと思う。すなわち発病という点で、この研究はエイズウイルス感染に対するホスト側の多様性を示すとともに、発病の抑制に関する新しいヒントになる可能性がある。

なかなか実験の難しいサルだと思うので、個体レベルの研究は難しいかもししれないが、iPS樹立も含め、今後さらなる追求が進むと思う。
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