1月7日:食物中のトレハロースがクロストリジウム強毒株進化を促進した(Natureオンライン版掲載論文)
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1月7日:食物中のトレハロースがクロストリジウム強毒株進化を促進した(Natureオンライン版掲載論文)

2018年1月7日
トレハロースは熱など様々な条件に最も安定な糖だが、精製にコストがかかっていたため、使用は化粧品などに限られていた。その後、デンプンから安価に精製する方法が開発され(最初は1kgが700ドルしたのが、現在では3ドルで精製できる)、多くの食品に添加されるようになって現在に至っている。もともと、多くの自然にある植物に含まれていることから、最も安全な糖として広く使われるようになった。

今日紹介するテキサスベーラー大学からの論文は、確かに食品としてトレハロースが危険というわけではないが、病原性の高いクロストリジウムの病原性を高める役割を果たしていることを示した、ちょっと恐ろしい研究で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Doetary trehalose enhances virulence of epidemic clostridium difficile(流行性のクロストリディウム・ディフィシル強毒株の毒性は食事の中のトレハロースにより増強される)」だ。

この研究は、2000年から2003年に流行したクロストリディウム・ディフィシル(CD)RT207株、および1995年から2007年の間に10倍も症例数が増えたRT078の進化が、食品中の炭水化物の変化により誘導されたのではと着想し、様々な炭水化物を調べた結果、2000年以降に広く使われだしたトレハロースが両方の菌株に利用されるが、他の菌は利用できないことを発見する。

次に、トレハロースが利用できるようになるための分子変化を探索し、TreA分子の有無がトレハロースの利用可能性を決めている原因遺伝子であることを突き止める。

この結果をもとに、ではTreAの発現が2000年前後で始まったCDの進化を説明できるか次に検討し、試験管内の実験で、流行性を獲得した株は500倍低い濃度のトレハロースがあればTreAの発現が誘導できること、そしてTreAオペロンを1010種類のCDで調べ、RT028株を含む多くの株では、この違いがTreRリプレッサー遺伝子の1塩基置換により起こっていることを突き止めている。

次に、TreRが正常型の菌株をトレハロースで培養すると、TreBの機能が突然変異によって欠損した細胞株が得られることから、おそらく流行株でのレプレッサー変異が、食品として含まれるトレハロースへの新たな環境適応として選択されたことがわかる。

次に、流行性株をマウス腸内に移植し、トレハロースを含む/含まない2種類の餌を与えて腸炎による死亡率を調べると、トレハロースを摂取することで毒性が強くなることから、トレハロースにより誘導されるtreAが毒性を決めていることを明らかにしている。

以上の結果は、RT027株の話で、同じようにトレハロースが利用出来るようになったRT078株ではtreAは正常のままだ。そこでこの株についても遺伝子の比較を行い、トランスポーターptsT遺伝子が新たに獲得されたこと、これによりトレハロース存在かで細胞の増殖が高まることを確認している。

最後に、私たちの腸内のトレハロース濃度でtreAの誘導が起こることも確認しており、これが決して実験的な条件で起こったことではないことを示している。

まとめると、トレハロースが食品等に使われるようになり独立してトレハロースを利用出来る突然変異が誘導され、これがtreAの発現が高い流行性強毒変異株を誘導し、こうして生まれた強毒株はトレハロース存在下で毒性を最大限発揮するという結果だ。

恐ろしい話だが、2つの重要なポイントがある。一つはCDの強毒株は抗生物質の使いすぎにより発生したという考えは再検討される必要があること、そしてトレハロースを摂取しなければ、流行株でもトレハロース摂取を完全に止めれば毒性が弱いことだ。大至急臨床の現場で確かめるべき重要な論文だと思う。
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