2月27日;新しい神経変性疾患原因遺伝子の特定(2月27日発行Cell掲載論文)
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2月27日;新しい神経変性疾患原因遺伝子の特定(2月27日発行Cell掲載論文)

2018年2月27日
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今、何人のヒトゲノムがデータベース上に保存されているのだろう。公開されていないもの、エクソームだけのものなどを含めるとすでに100万人は越しているとおもう。この中には、多くの病気の方のゲノムも含まれているが、ゲノムが解読されたと言っても、病気との関連がついたわけではない。そのためには、研究者の優れた着想と、関連を確かめる粘り強い努力が必要になる。

そんな例を、今日紹介するコロンビア大学とベイラー医大からの論文に見た。タイトルは「A mild PUM1 mutation is associated with adult onset ataxia, whereas haploidnsufficiency causes developmental delay and seizures (PUM1分子の軽度異常を誘導する変異は成人発症型の運動失調の原因になる。また、片方の対立遺伝子の欠損は発達障害とてんかんの原因になる)」だ。

著者らは、運動失調(Ataxia)の研究を行っていたようで、Ataxin1遺伝子の過剰発現が脊髄小脳性の運動失調の原因であること、そしてこの遺伝子がPumilio1(PUM1)と呼ばれるRNA結合分子により発現が抑えられていること、そしてPUM1遺伝子欠損が片方の染色体で起こるだけで、Ataxin1の過剰発現マウスと同じ症状が出ることを報告していた。すなわち、PUM1の量は厳密に調節され、これが少しでも減ると、PUM1の標的遺伝子の発現が上昇して、様々な異常が起こることを示している。

とすると、マウスの実験から考えて、PUM1のヘテロ型の変異による脳神経の異常が起こってもいいはずで、この可能性を調べるため著者らは遺伝子コピーの欠損と病気の関係を調べられる52000人の染色体マイクロアレー・データベースを探索し、9人のPUM1が片方の染色体で欠損した患者さんを発見している。この患者さんには、他の遺伝子異常も認められるが、統計学的にも神経発達異常はPUM1と最も相関していることを確認している。この遺伝子が欠損した患者さんは全て発達障害・知能障害を持ち、てんかん、運動失調が見られる。 さらに、エクソームデータベースから、神経発生異常を伴うPUM1遺伝子の点突然変異を2例特定している。 この点突然変異により遺伝子機能が失われるが、この結果1例は5歳で不随意運動、運動失調などを示すアタキシアだがMRIでは異常を認めない。もう一例は生後5ヶ月で発症した発達異常で、運動失調などの小脳症状とともに、全般的な発達異常を示す。また、MRIで小脳の異常を認めている。このように、突然変異のタイプにより、発症時期が異なり、病気の程度も大きく違うことから、おそらく機能の量的異常が症状に反映されることがわかる。

そこで、もっと遅い発症の突然変異がないかも探索し、50歳以降に発症する変異を特定し、PUM1関連アタキシアと名付けている。

あとは、PUM1の機能が量的に低下することでAtaxin1だけでなく多くの遺伝子の発現が上昇すること、さらにマウスモデルが作成できることも示しているが、詳細はいいだろう。

この研究は、データベースは揃っても、遺伝子を特定するのは難しい場合が多く、PUM1が神経変性疾患を誘導するという候補を着想して初めて、新しい神経変性疾患の原因遺伝子を特定できることを示している。 そして、複数の分子の発現量を決める機能を持つRNA結合分子は神経変性疾患の原因になりうること、また通りいっぺんの検索では病気との関連が見落とされる可能性があることを示した点で重要だ。しかし、着想できれば、データベースは揃っている。今後、同じような変異が見つかる可能性は大きい。そしてもし早く診断できれば、この疾患も遺伝子治療の可能性がある。データベース時代の新しい病気の発見を代表する面白い研究だと思った。
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