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4月12日:ヒゲクジラのゲノム解析(4月4日Science Advances掲載論文)

2018年4月12日
ヒゲクジラの仲間には、世界最大の哺乳動物シロナガスクジラが含まれる。いつも不思議に思うのだが、こんな大きなクジラなのにヒゲ板でこしとれる小さなオキアミなどで体を支えている。現役の時、当時東工大の岡田先生のグラントヒアリングに参加し、トランスポゾンを標識にゲノムを調べると、クジラはカバから分離してきたことを聞き、なんとなく納得したが、なぜこのような巨大な哺乳類が誕生できたのかなど、まだまだわからないことは多い。当然多くの研究者が殺到して、ゲノム解析はとうの昔に終わっていたのかと思っていた。

今日紹介するフランクフルトの生物多様性と気候研究センターからの論文は、6種類のヒゲクジラのゲノムを解析して、その系統関係を解析した論文で4月4日号のScience Advancesに掲載された。タイトルは「Whole-genome sequencing of blue whale and other rorquals finds signatures for introgressive gene flow(シロナガスクジラと他のナガスクジラの全ゲノム解析により、種間の遺伝子移入の痕跡が見つかった)」だ。

研究ではカバと6種類のヒゲクジラの全ゲノムを6−27coverageの精度で解析し、それぞれの系統関係、遺伝子移入の有無、そして個体数の変遷について解析している。実際には、クジラのゲノムはこれまでも研究されており、特にヒゲクジラの仲間は、形態的系統分類とゲノムによる系統分類の間で矛盾が多く、一般的な種分化の様式が適応しにくいことが指摘されていたらしい。

この研究では、全ゲノム解析に基づきSNPがはっきりした約35000のゲノム断片を比較して系統樹を書き、シロナガスクジラとイワシクジラのグループ、コククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラのグループ、そしてミンククジラのグループにとりあえず分けられるが、コククジラの位置関係がまだはっきりしないことを見出す。

そこで次にそれぞれの種間の遺伝子移入の有無を調べると、それぞれの種間で遺伝子移入が検出されるが、種分化の早い段階で起こったミンククジラとの交雑がコククジラで検出できないために、おそらくコククジラの系統だけが、別系統に分類されるたと結論している。一方、コククジラとシロナガスクジラ、イワシクジラ間では遺伝子移入が検出できる。

このように遺伝子移入が起こると、順々に種分化が進むとするモデルが成立しないため、これを勘案して系統関係を計算する必要がある。そしてカバから約5千万年前に分離したクジラから約3千万年前にヒゲクジラが分離、1千万年前にミンククジラとそれ以外のヒゲクジラが、8百万年前にシロナガスクジラ、イワシクジラの仲間と、ザトウクジラ、ナガスクジラの仲間、そしてコククジラが分かれたという最終的系統樹に到達している。

あと種内での多様性から、ヒゲクジラは1千万年前位に最も栄え、その後ずっと個体数を落としてきていることも示されている。ヒゲクジラを守ることは私たちの使命だ。

これまで、1千万年というスケールの種分化研究で遺伝子移入を問題にしている研究に出会ったことはなかった。陸上動物ばかりに目がいってしまうと、生息圏が隔離され、交雑の機会が失われるといった状況を種分化の要因として考えてしまうが、海の中にはなんの境界もない。そう考えると、広い海を北極や南極から赤道まで回遊を繰り返すクジラが交雑を繰り返しながら多様化することも納得する。

我が国は捕鯨を文化として位置付けて調査捕鯨に50億円近い予算が支出されているが、このようなゲノム研究にどれだけ本腰を入れているのか知りたいところだ。
カテゴリ:論文ウォッチ
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