5月25日:防御機構IgAを利用して腸内に棲みつく細菌(5月18日号Science掲載論文)
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5月25日:防御機構IgAを利用して腸内に棲みつく細菌(5月18日号Science掲載論文)

2018年5月25日
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人間でも細菌でも、集団として一つの社会を形成している時、社会全体を見ることも重要だが、個別の単位をサンプリングして調べることなしに、全体を理解することはできない。このことは、腸内細菌叢の研究の歴史を見ているとよくわかる。それぞれの時代でどちらかにより重点が置かれるが、必ず揺り返しが来る。何度も述べているが、細菌叢の研究で今トレンドになっているのは、個別の細菌とホストの関係を徹底的に調べる方向性だ。

今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文は腸内細菌叢に常在する一部の細菌は腸内に棲みつくためにホストの免疫反応を利用していることを示す研究で5月18日号のScienceに掲載された。タイトルは「Gut microbiota utilize immunoglobulin A for mucosal colonization(腸内細菌は免疫グロブリンAを粘膜への定着に利用している)」だ。

このグループは、私たちの健康に良い影響を及ぼすことが知られているBacteroides fragilisを無菌動物に摂取させ、粘膜に定着する条件を調べており、この研究から定着の悪い変異細菌株を分離し、この変異が細菌の莢膜の構成成分であるポリサッカライド(PS)、PSAとPSC合成に関わることを発見する。また、この株では正常のPSBが合成できない細菌株はさらに腸内への定着効率が低下する。

PSは様々な免疫反応を誘導できる分子であることがわかっているので、PS合成により免疫反応が誘導され定着が上昇する可能性を探る中で、一般的な細菌に対する免疫や炎症誘導性がメカニズムではなく、このPSと反応するIgAが誘導されることが定着を促進させることを発見する。この可能性をさらに確かめるため、免疫系が欠損したマウスやIgA欠損マウスで調べると、正常細菌でも定着が落ちること、この低下はPSに対するIgA を加えることで元に戻ることを示している。すなわち、PSに対するIgAは細菌の増殖にはほとんど影響ないが、粘膜への定着に必須であることがわかった。

ただ、IgAの細菌への影響を調べると、同じようにIgAがあると定着率が上がる細菌と同時に、IgAが存在すると粘膜への定着が阻害される細菌も存在する。すなわち、IgAは細菌を助ける場合と、細菌からホストを守る働きを演じ分けていることもわかる。

以上の結果は、ホストの免疫が誘導されることが、単純に細菌に対する防御ではなく、細菌の定着にも使われていることを示唆している。この研究でも示されているが定着するためには、細菌が塊を作る必要がある。この塊の形成をIgAが助けている。もちろん同じ現象は、毒性のある菌でも見られることが予想されるため、結局は良い菌と悪い菌を特定し、良い菌だけを増やすためのIgAの利用法を開発することが重要だろう。特にIgAは母乳にも含まれる。もしこの段階で母乳の助けを借りて、将来体を守ってくれる細菌を増やす方法が見つかれば、腸を育てる健康法の感性に一歩近づくような気がする。
カテゴリ:論文ウォッチ