6月6日 統合失調症発症に関わる主役の細胞(5月21日号Nature Genetics掲載論文)
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6月6日 統合失調症発症に関わる主役の細胞(5月21日号Nature Genetics掲載論文)

2018年6月6日
一人の人間には多くの情報が集まっている。ゲノムは言うに及ばず、エピゲノム、神経ネットワーク、そして言語、文字、さらにはバーチャルメディア等、様々な媒体により記録された情報が集まっている。勿論生命進化の過程で開発された情報媒体は他にもあると思うが、記録として残せる媒体はそう多くない。そして重要なことは、異なる媒体に記録されていても、内容は同じ事もある(例えば飢えの経験がエピゲノム、脳ネットワーク、言語により記録されること)。そしてこれは一人の個人に集まることで初めて統合される。

最近講義する機会があれば、21世紀の生命科学の重要な課題は、一つの個体に表現された、様々な媒体により担われた情報同士を統合する方法の開発だと教えている。この考えでいくと、発生学ではゲノムとエピゲノムの統合することが課題になる。幸いエピゲノムはDNA媒体と密着しており、ゲノムの解読なしにエピゲノムの解読がありえない関係だ。このおかげで、私達が現役の頃には考えられなかった新しい発生学が現在急速に展開している。ところが、神経ネットを媒体とする情報は、ゲノムからの距離は遠く、ゲノムとの相関を考えることは簡単ではなく、今も様々な試行錯誤がおこなわれている。

すこし前置きが長くなったが、今日紹介するカロリンスカ研究所からの論文は、ゲノム解析の結果急速にリストが拡大した統合失調症関連遺伝子を、統合失調症の細胞機能と関連づけられるか細胞レベルで統合を試みた研究で5月21日号のNature Geneticsに掲載された。タイトルは「Genetic identification of brain cell types underlying schizophrenia(統合失調症の背景にある脳細胞を遺伝学的に特定する)」だ。

研究のストラテジーはシンプルだ。脳のさまざまな場所から得られた単一細胞の発現遺伝子データを、ゲノム解析から得られた統合失調症と相関する遺伝子と比べ、統合失調症に関わる遺伝子が濃縮している細胞を探している。すると驚くことに、濃縮が見られた細胞は24種類の脳細胞のうちたった4種類、しかも成人の細胞に限られていた。即ち、海馬CA1の錐体細胞、線条体のスパイニー神経、新皮質体性感覚野の酔態神経、そして皮質の介在神経の4種類だ。

この結果が投合失調症に特異的であることを示すため、他の疾患、例えばうつ病のSNPとも比べ、うつ病ではGABA作動性神経をはじめとするちがった細胞に濃縮されることを示している。また、すでに蓄積されているパブリックなデータセットを用いて、同じ結果が得られるかも調べ、今回の結果を他のデータベースの結果からも導けることを明らかにしてている。

最後に、それぞれ4種類の細胞が同じような統合失調症に関連する遺伝子を発現しているのか、異なる種類の統合失調症と関連する遺伝子を発現しているのかも検証し、かなりの遺伝子がそれぞれの細胞特異的に発現している事も確認している。

単一細胞の遺伝子発現を調べることが可能になり初めて実現した研究だが、なんとかゲノム研究の結果を、統合失調症に関わる遺伝子の発現が高い細胞として、細胞レベルに落とし込んだ事は重要だ。今後iPSを用いて各細胞を誘導することが可能になると考えると、今回の結果を機能的に調べることも可能になる。実際、統合失調症の患者さんから生きた細胞を誘導できたとしても、それぞれで発現する分子の多型がどの様に統合失調症を引き起こすのかを理解するにはまだまだ先は長い。それでも大きな進展だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ