6月13日 インシュリン分泌刺激剤GLPが、パーキンソン病の進行を遅らせる(Nature Medicineオンライン版掲載論文)
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6月13日 インシュリン分泌刺激剤GLPが、パーキンソン病の進行を遅らせる(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2018年6月13日
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最近、神経変性疾患を誘導する一つのメカニズムとして、刺激されたミクログリアが神経端末にあるアストロサイトをA1と呼ばれる活性型に転換し、その結果神経が障害されるというプロセスの重要性が指摘されるようになっている。即ち、一種の脳内炎症が、神経変性を促進しているとする考えだ。この考えが魅力的なのは、なんとか炎症を抑えることで、神経変性を遅らせることができる可能性が出てくる点だ。

今日紹介する米国ジョンズ・ホプキンス大学からの論文は、この炎症サイクルを膵臓β細胞のインシュリン分泌を促進させるGLP1受容体への刺激が抑えることができることを示した研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Block of A1 astrocyte conversion by microglia is neuroprotective in models of Parkinson`s disease(ミクログリアによるA1アストロサイトへの転換を阻害することでパーキンソン病モデルで神経を変性から守ることができる)」だ。

この研究は、GLP1受容体(GLP1R)の刺激がアルツハイマー病やパーキンソン病で、神経を変性から守るというこれまでの報告を前提に行われている。この考えを確認するため、まずドーパミン神経の細胞死を誘導できるαシヌクレインを線条体に投与して1ヶ月後から、脳内に移行し長期間働き続けるポリエチレングリコール化したGLP1RアゴニストNLY01を投与しその効果を調べると、NLY101投与により脳内でのシヌクレンの蓄積が抑えられ、ドーパミン神経の変性が抑えられ、マウスの運動障害も改善できることが確認された。

また、急速にシヌクレンが蓄積して1年で死亡するパーキンソンモデル・トランスジェニックマウスにも投与実験を行い、NLY101では治癒にはいたらないが、死亡を5ヶ月程度延長できることを示している。用いられたモデルマウスがどこまで人間のパーキンソン病に近いかどうかは確認が必要だが、この結果を見ると、GLP1Rアゴニストがパーキンソン病の進行を抑える治療法になると希望が持てる。治験の登録サイトClinical Trial Govを検索すると、GLP1RアゴニストのExenatideの第1相試験が始まっており、今後このNLY101も加わって、効果が示されることを期待してしまう。

この研究はこれで終わりではなく、なぜNLY101が神経細胞死を抑えることができるのかについて解析を続けている。多くの実験が行われているが、長い話を短くすると次のようにまとめられるだろう。

1) αシヌクレンはミクログリアを刺激し、さまざまな炎症分子を誘導する。
2) ミクログリアから分泌される炎症分子によりアストロサイトがA1アストロサイトに転換する。
3) この転換により、神経細胞死が誘導される。
4) GLP1Rは脳内のほとんどの細胞で発現しているが、シヌクレンで刺激されたミクログリアでの発現が最も高い。
5) シヌクレンによるミクログリア活性化をNLY101が抑制する。その結果A1アストロサイトへの転換が抑制され、神経細胞死が防がれる。
細胞レベルのメカニズムとしては十分納得できる。残念ながら、なぜGLP1R刺激がミクログリアの活性化を抑えるかについては明らかになっていないが、この点も明らかになるとさらに新しい治療標的も見つかるかもしれない。シヌクレンによるパーキンソン病モデルは、おそらく人間にも拡大できると思う。現在の治験が次のステージへと進むことを祈る。
カテゴリ:論文ウォッチ