6月14日:神の顔(6月11日発行PlosOne掲載論文)
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6月14日:神の顔(6月11日発行PlosOne掲載論文)

2018年6月14日
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ずいぶん昔になってしまったが2007年CDBのDoug Sippさんと共著でNatureが運営していたウェッブサイトに「Dualities of Christ and stem cells(幹細胞とキリストの二重性)」という小文を寄稿したことがある(https://www.nature.com/stemcells/2007/0708/070823/full/stemcells.2007.76.html)。ちょうど山中iPSが人間でも可能であることが発表された頃で、Nature のエディターだったDeWittにiPSの社会的インパクトについて書くように頼まれた。当時は、再生医学や創薬に役に立つという話ばかりが世の中で騒がれていたので(今もだが)、違う切り口で考えてみようと、キリストとiPSを比較するというかなり挑戦的な内容の話を書いた。iPSの登場で、それまで絶対的に非対称だった生殖細胞系列と体細胞系列が、双方向的に分化可能になり対称化した新しい時代を、431年エフェソスの宗教会議で当時のカソリック教が「Teotokos:マリアは神の母である」と決定して、ユダヤ教では完全に非対称だった神と人間が、カソリックでは対称化したことにたとえた。

今から考えるとこじつけに近い比喩だったが、人間が神の母になれるという概念の受容は、カソリックが一神教のまま世俗化する大きな転換点だったと思う。このおかげで、カソリック教会には素晴らしい美術があふれ、システィーナの礼拝堂にはミケランジェロの手になる神が描かれている。

仏教では人間も「成仏」できると考え、もともと神と人間を対称的に扱う。このおかげで寺院に多くの美術作品を擁する日本人にとって、カソリック教会に溢れる美術は何の不思議もない。

こんな話を長々と書いたのは、PlosOneにNorth Carolina大学から発表された「The faces of God in America: Revealing religious diversity across people and politics(アメリカでの神の顔:人々や政治信条による宗教の多様性を明らかにする)という論文を読んだからだ。

この論文はアメリカのクリスチャンが神の顔をどのように描いているのかを明らかにしようとした挑戦的な仕事だ。こんな課題を思いついただけでこの論文はほぼ完成したと言えるだろう。研究では、米国のさまざまな地域のクリスチャンに300組の顔写真を見せ、どちらが神のイメージに近いかを聞いて、その結果をもとに神の顔を合成している。

全ての人のイメージを総合すると、神のイメージは白人、ハンサム、知的で、優しく、若い男性の顔のイメージが出来上がっている。ミケランジェロの描いた厳しい神と比べると、親しみやすい神だったというのがミソだ。

次に、共和党支持者と民主党支持者に分けて、それぞれの違いを描き出すと、保守的な人ほど、年齢が高く、男らしく、もちろん白人で、力強いイメージを持っている。最後に、個々人に神のイメージ写真を見せ、個人が持っているイメージと比べさせると、各人の持っているイメージは結局自分とよく似ていることを明らかにしている。

この結果をどう受け入れるかは議論があるだろう。かなり結論ありきの印象が強く、はっきり言って科学論文としては未熟だと思う。しかし、神も脳の中にあるなら、科学的にアプローチできるとチャレンジしたことは伝わってくる。

アメリカは、宗教的には保守的な国だが、これに科学的態度で立ち向かう科学者や思想家も多い。 Dennettの「Breaking the Spell」やShermerの「Heavens on earth」、アメリカ人ではないがDawkinsの「The God dellusion」などは若い科学者に是非読んで欲しいと思っている。
カテゴリ:論文ウォッチ