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6月15日:超音波による脳機能操作の真実(6月6日号Neuron掲載論文)

2018年6月15日
昨年11月号のNatureに超音波を脳研究や治療に使う可能性についてのレポートが掲載され(Landhuis Nature 551:257, 2017)、それまで考えたこともない超音波(ものの振動)で脳が操作できるという話には驚いた。この中では、超音波を使ってナノ粒子を活性化して、中に詰めた薬剤を遊出させる方法など、なるほどと納得できる技術の紹介もあった。しかし超音波を脳に照射することで皮質神経細胞の興奮を刺激でき、これを使ってピンポイントの脳操作を期待する研究が増えていることも報告されていて驚いた。電流や磁場ならともかく、超音波がなぜ神経興奮を誘導できるのか、誰も説明できておらず、本当に磁場照射や電流に匹敵する方法に発展するのか、誰でも疑問を持つ。

今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文は超音波照射は脳神経細胞に直接作用するのではなく、聴覚を通して効果を及ぼすことを示した研究で6月6日号のNeuronに掲載された。タイトルは「Ultrasonic neuromodulation causes widespred cortical ac-tivation via an indirect auditory mechanism(超音波による神経操作法は間接的に聴覚メカニズムを介して皮質の広い範囲を活性化することに起因する)」だ。

最初はこの研究も、超音波による神経操作法(UNM)のメカニズムを明らかにしようと計画したのだと思う。超音波を照射した時に脳全体がどう変化するかモニターするため、すべての皮質神経細胞の興奮をカルシウムセンサーの発光でモニターできるように遺伝子操作したマウスを用い、頭蓋を薄くして発光を検出しやすいようにして超音波への反応を調べている。

すると予想に反して、照射により最も早く興奮する場所は聴覚に関わる皮質野で、他の領域の興奮は後から起こってくることを発見する。同じ興奮パターンが、視覚野をねらって超音波を照射しても起こるため、マウスには聞こえないと考えられる波長の超音波でも、その効果はまず聴覚を通して脳内に伝播していると考えられる。これを確認するため、脳の左右別々に照射を行うと、照射した場所ではなく、反対側の聴覚野から活動が始まる。これは聴覚神経の走行と一致することから、超音波もまず内耳を通って脳の興奮を誘導していることが確認された。

次に、聞こえる普通の音と、超音波を聴かせて比較しているが、興奮の強さや時間経過はほとんど両者で変化がないこと、さらには内耳の機能を抑制したマウスを用いて超音波照射を行うと、脳の興奮がなくなることから、超音波も何らかの形で耳で聞くというプロセスを通してだけ脳に伝わることが明らかになった。普通の音や、光刺激と同じで、超音波を照射してもマウスの運動が止まることから、マウスは超音波を音として認識していることも確認できた。ここからは私の解釈だが、おそらく聴覚系が反応しても、聞くと認識しないだけで、脳は超音波にも反応するのだろう。

以上の結果は、これまでの超音波による脳操作実験の全否定になっているといわざるをえない。超音波が膜電位にどう影響するのか明確でない以上、個人的にはこの結果の方が納得できる。すなわち「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という結論だ。しかし、試験管内で培養している神経を超音波で興奮させるという論文もあり、今回の実験からはこの実験を否定することはできない。さあどうなるか?幽霊か現実か結論するためには、もう少し時間がかかるかもしれない。
カテゴリ:論文ウォッチ
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