6月18日:膵臓癌の潜伏転移(6月15日号Science掲載論文)
AASJホームページ > 2018年 > 6月 > 18日

6月18日:膵臓癌の潜伏転移(6月15日号Science掲載論文)

2018年6月18日
膵臓癌のほとんどは、発見された時にリンパ節転移や遠隔転移が存在する進行癌で、これが治療が難しい一つの原因だ。ただ、これにとどまらず、せっかく早期発見できて、手術時にもほとんど転移が見つからずに安心していても、2年ぐらいして転移が発見されるケースがかなりあることだ。即ち、早期発見したと思っていた時にはすでに隠れた遠隔転移細胞が存在して、それが何かの拍子に活動を始めて、完治をはばむというはなしだ。

今日紹介するCold Spring Harbor研究所からの論文は、このステルス転移ガンが発生するメカニズムを調べた研究で6月15日号のScienceに掲載された。タイトルは「Unresolved endoplasmic reticulum stress engenders immune-resistant, latent pancreatic cancer metastases(対処できないERストレスが潜伏性の膵臓癌を発生させる)」だ。

この研究は最初から潜伏性のステルス転移ガンが存在するという仮説で研究を進めており、まず何らかの理由で亡くなった転移がないと診断された初期膵臓癌患者さんの解剖例を集めて、肝臓に膵臓癌の潜伏性転移がないか詳細に調べるところから始めている。調べた全例で、膵臓癌マーカー陽性の細胞が単独で肝臓に見つかること、そして転移癌は免疫反応に必須のMHC分子の発現がE-カドヘリンとともに低下していることを発見する。

この観察から、原発巣の細胞の一部がE-カドヘリンを失うことで転位がおこり、その細胞はMHCが欠けているために免疫反応から逃れられて潜伏するというシナリオが生まれる。

これ以上はヒトで確かめることはできないので、マウス膵臓癌モデルについて同じことが起こっていることを確認し、この潜伏細胞から細胞株を樹立している。この細胞は免疫が成立していないマウスでは増殖するが、免疫が成立していると増殖が抑えられ、免疫から逃れた潜伏がん細胞だけが残る。従って、何らかのきっかけで免疫機能が低下したり、あるいはガンの変異が重なると転移巣が再活性化されることになる。

最後に、Eカドヘリン陰性、MHC 陰性のステルス細胞の発生するメカニズムを調べる目的で、Eカドヘリン陰性、陽性の細胞を比較し、発現している分子セットから、ステルス細胞ではERストレスに関わる分子が強く発現していることを発見する。あとは、ERストレスに関わる分子を阻害したり活性化させる実験で、膵臓癌がERストレスを処理できない時にMHC発現が抑制されること、そしてこれによりがん細胞が免疫系にキャッチされることを明らかにしている。

以上の結果は、潜伏するステルスガンは、細胞自身の増殖状態の変化ではなく、免疫系との関わりで発生するグループがあることを示している。

以前から、ERストレスにより細胞が転移しやすくなったり、あるいは静止期を維持する幹細胞化が起こる可能性については研究が進んでいるが、免疫系との関係だけで潜伏性が決まるというケースは今回の研究が初めてではないだろうか。いずれにせよ、ガンの多様性にどう立ち向かうかが、現在最も大きな課題になっていることを実感する。幸いこの研究では、これに立ち向かうヒントも示唆している。まず、ステルス細胞は免疫機能が低下すると増殖するため、手術後免疫が低下して、このような細胞が増えないように注意することが重要になる。著者らは、術後のストレス反応を抑えて免疫系を維持することが重要で、そのために術後に高栄養状態を保つことがステルス細胞の増殖を抑えるのに役立つかもしれないと示唆している。もう一つのヒントは、ステルス細胞のMHCがERストレスを解消してやることで発現が戻ることで、このために化学シャペロンの投与が役立つと示唆している。是非早急にこれらの可能性を確かめて欲しいと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ