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7月5日コアラのゲノム(Nature Genetics オンライン版掲載論文)

2018年7月5日
オーストラリアは珍しい動物の宝庫だが、最も愛されているのが、パンダに並んで愛くるしい動物がコアラだろう。オーストラリアにも何回か仕事で行ったが、残念ながらコアラの実物に巡り合う機会に恵まれなかった。今日紹介するオーストラリア博物館からの論文を読んで、すぐ近くの王寺動物園で飼育されているコアラで良いので是非見に行こうと思った。論文はコアラの全ゲノム解析についてでNature Geneticsオンライン版に掲載された。タイトルは「Adaptation and conservation insights from the koala genome(コアラのゲノムからわかる適応と保存)」だ。

これほど注目されている動物のゲノムがようやく解読されたのを知って驚いた。恐らく、配列を読んだ断片を正しく並べて染色体を構成し直す土台がうまく設定できなかったのだろう。幸い、最近では一分子シークエンサーと呼ばれるかなりの長さのDNAを一度に読んでしまうシークエンサーが利用できるようになり、ついにコアラのゲノムもかなりの正確さで読めるようになった。このことを示すために、元々正確な配列がきめにくいセントロメアの配列が解読できていることを示している(免疫沈降法でセントロメアを精製して配列を確認し、コアラのセントロメアの大部分がトランスポゾンから出来ていることを示している)。このようなトランスポゾンの分布など、コアラのゲノムを理解するには重要だが、これは専門家にまかせて、コアラの生態との関わりでこの研究から分かったことにしぼって説明しておく。

ユーカリの葉への適応 ユーカリはほかの植物と比べ多くのテルペン合成酵素を持っており毒性が強いため、動物の餌としては不適当だ。このおかげでコアラはユーカリを独占できるのだが、そのためにはテルペンを解毒する必要がある。コアラでは、ほかの哺乳動物や有袋類とくらべ解毒酵素Cyp2遺伝子群の重複が見られ、解毒のための主臓器、肝臓で高い発現が見られる。ただ逆に、解毒作用が強い結果、コアラでは抗炎症剤や抗生物質がすぐ分解され、効果が早く失われるのもこのCyp2遺伝子の進化によることが明らかになった。
更にコアラは体内の解毒システムだけでなく、安全な葉を選んで食べているようで、そのための臭いと味のセンサーを発達させていることも、嗅覚受容体や味覚受容体遺伝子から考察している。特に、苦みを感じる受容体の数が大きく増え、また水の量を感じるアクアポリン遺伝子にも重複が見られる。パンダと違い、甘みやうまみの受容体は残っている。ここからは私の想像だが、苦みを楽しみに変えるため、受容体をふやし、新しい味の感覚を身につけたのではないだろうか。

コアラの性交 
コアラはオスとの性交により排卵する。この習性に会わせて、雄の精液には、排卵を誘導すると共に、精液の成分で雌の生殖臓器の栓をして、精液が流れないようにしている。(とは言え、このような話しはゲノム研究の範囲のようには思えない)。 コアラの子育て
コアラの赤ちゃんは0.5gで生まれてくるため、これを育てるためのミルクを調合する仕組みを持っている。ただ、よく読んでみてもほかの有袋類とどう違うのかについては詳しく述べられていない。 コアラの免疫
病気で保護されるコアラの半数がクラミジア感染で、なぜこの特殊な菌にだけ感受性が高いのかについての原因が免疫に関わる遺伝子から分からないか調べているが、やはりゲノムからでは何とも言えないようだ。

コアラの歴史
これまでの研究でコアラは3−4千万年前、ウォンバットから主として分化したことがわかっている。ゲノムをみると、その後の盛衰が予測できる。これによると、35万年前から急速に種として個体数が増加するが、オーストラリアの他の動物種と同じで、4−5万年、および3−4万年前に急速に個体数が減る。オーストラリア大陸に人類が上陸したのが6万年前なので、やはり人間が個体数減少の一因かもしれない。
コアラは保護目的の人為的移動も含めてオーストラリアの東南海岸に分布しているが、比較的遺伝的多様性が保たれている。ただ、人為的移動によるコロニーでは多様性が失われているので、今後ゲノム解析に基づいて多様性を維持する保護策を講じる必要がある。

以上が論文の要約だが、ゲノムだけでなくコアラについてよく勉強できる論文ではないだろうか。
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