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8月12日:ホモ・サピエンスと他の人類との違いを考える(Nature Human Behaviour7月号掲載論文)

2018年8月12日
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肉食動物、草食動物と分けるように、人間のような雑食動物はそう多くない。勿論ヒトに近いゴリラ、チンパンジー、ボノボも雑食で、高たんぱく質の肉食が脳の発達を支えてきた。しかし我々現生人類ホモ・サピエンスを考えてみると、文化によって食べ物が大きく多様化し、というより食べ物の違いが文化の核となっている。とはいえ、特殊化した食の魅力は万国共通で、今や日本人もカタツムリを食し、外国人がフグを食べる。このような、何でも食べることと、食を極めることが両立しているのがホモ・サピエンスの特徴で、これが我々をネアンデルタール人や、デニソーワ人から分けたのではという問題提起がドイツ イエナのマックスプランク人類史研究所とミシガン大学考古学博物館の研究者から投げかけられた。タイトルは「Defining the ‘generalist specialist’ niche for Pleistocene Homo sapiens(ホモ・サピエンスのgeneralist-specialistニッチを定義する)」だ。

この研究者に限らず、生物に興味がある人ならなぜ我々ホモ・サピエンスが、ネアンデルタール人など他の人類を差し置いて地球の王者となったのか、その謎を解きたいと思っている。わたし自身は、シナイ半島で10万年もの間、現生人類とネアンデルタール人が互いの領域に踏み込むことなく生きていたのに、4.5万年前後に急にこのバランスが崩れ、現生人類がヨーロッパを制圧したのは、音を使った複雑な言語の誕生ではないかと思ってきた。さらに、この音を使う言語の獲得はどの人類にもチャンスがあったのに、偶然ホモ・サピエンスが先に獲得したのではないかと思っていた。

ところが、この論文の著者らは、ホモ・サピエンスだけがgeneralist-specialist、すなわち何にでもトライし(generalist)、それを極める(specialist)オープンな能力を持っていたことから、世界のあらゆる場所に棲息することができ、必然的に他の人類を凌駕したと提案している。

他の動物と比べたとき、すべての人類はある程度Generalist-Specialist(GS)といえ、その結果直立原人はすでにユーラシア全体に広がることができた。しかしその後に移動したネアンデルタール人やデニソーワ人の先祖がアフリカ脱出を果たしたのは50万年ごろだが、ネアンデルタール人はヨーロッパから西アジア以上に棲息範囲は広がらず、また正確にはわかっていないがデニソーワ人もアルタイを中心にした領域のみに棲息していたと考えられている。それに対し、ホモ・サピエンスで南ルートを通って拡大したグループは、なんと海を渡ってオーストラリアまで6万5千年前には到達している。さらに、4.5万年ほど前にシナイルートを通って北に分布したグループは、その後ベーリング海峡を渡り、南アメリカまで全世界に瞬く間に広がっている。

この背景には棲息地を求めて、あえて困難な場所を選びそれに適応するチャレンジ精神がホモ・サピエンスだけのあったというのがこの論文の主張だ。その証拠としてあげられているのが、数万年前からホモ・サピエンスが生存には厳しい環境を選んで生きていたことを示す遺跡で、それをまとめると次のようになる。

1) ホモ・サピエンスの出アフリカが最初に行われた南ルートには、人類一般の棲息場所としてのサバンナだけではなく、サウジの砂漠、そして熱帯雨林とともに、海が存在しており、これらを乗り越えるだけでなく、それぞれの環境で子孫を残しながら、5万年でオーストラリアにまで広がったのは、GS能力がないと不可能だ。
2) 全大陸で、ほとんど生存に適さない高地に適応した人類が生まれている。
3) 日本への進出を始め、海をこえた移住が行われている。
4) 高地も含め、極端な寒冷地に適応した民族が生まれている。

ナミブ砂漠、カラハリ砂漠、北極圏の遺跡など具体的例が挙げられているが、詳細は良いだろう。要するに、必要があったとはいえ、わざわざ生存に適しそうもない環境を選ぶチャレンジ能力は、決して最近の話ではなく、数万年前からホモ・サピエンスにだけ見られるという結論だ。食に限って、この人間のGS能力の対極にあるのが、笹しか食べないパンダやユーカリしかたべないコアラだろう。

確かに、面白い指摘だが、この可能性をどう証明していくのか、生きたネアンデルタール人がいない以上、このようなチャレンジ精神の背景にある脳回路を明らかにする事が必要になるだろう。ぜひそのような総合的考古学が我が国にも根ずくことを願っている。
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