8月21日CPEB4のスプライシングと自閉症(Natureオンライン版掲載論文)
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8月21日CPEB4のスプライシングと自閉症(Natureオンライン版掲載論文)

2018年8月21日
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自閉症は単一遺伝子の変異で起こる場合もあるが、孤発性の自閉症の場合は、多くの遺伝子での変異が絡みあう多因子疾患のため、なかなか動物モデルで研究することが簡単でない。

今日紹介するスペインのオチョア分子生物学研究所からの論文は、CPEBが解析の難しい孤発性の自閉症発症に関わるメカニズムに迫った優れた研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Autism-like phenotype and risk gene mRNA deadenylation by CPEB4 missplicing (CPEB4のスプライス異常による自閉症様形質とリスク遺伝子mRNAの脱アデニル化)」だ。

CPEBはmRNAの3’非翻訳領域のCPE配列に結合し、poly-A の長さを調節し、タンパク質の翻訳を抑制する機能を持つRNA結合分子だが、特にシナプスの可塑性を調整して学習や記憶に関わることが知られている。この研究では、まずCPEB1とCPEB4分子と結合するmRNAを網羅的に調べ、CPEB4分子と結合するmRNAの多くが自閉症との関連が知られている分子のmRNAであることを発見する。

そこで孤発性の自閉症患者さんの剖検脳での遺伝子発現を調べ、自閉症の人ではCPEB4分子の4番目のエクソンがスプライシングでスキップされたmRNAが多く発現していることを発見する。この変化により自閉症の患者さんの脳では、自閉症関連遺伝子として知られる遺伝子のmRNAのpolyAが選択的短くなり、その結果これら自閉症遺伝子の翻訳が低下することがわかった。驚くことに、この変化により最も影響を受けるmRNAは社会性に関わるオキシトシンシグナルに関わる分子をコードしていた。

最後に、人の自閉症特異的に見られた4番目のエクソンがスキップされたCPEB4遺伝子をマウスに導入してトランスジェニックマウスを作成し脳を調べると、多くの自閉症遺伝子のpolyAが短くなり、タンパク質への翻訳が低下し、そしてその結果マウスが自閉症に相当する症状を示すことがわかった。重要なのは、単純にCPEB4を神経細胞からノックアウトしただけでは、このような変化は見られず、」エクソン4を失ったCPEBだけが誘導する状態であることがわかる。

以上が結果だが、これまで発表された自閉症遺伝子の研究の中でもこの研究が明らかにしたいくつかの点は自閉症研究に新しい方向を示すのではと感じている。

1) 多くの自閉症と連関が知られている遺伝子のmRNAがCPEB4結合部位を持っていることの発見。なぜ独立に自閉症との関連が調べられてきた遺伝子の多くが、CPEB結合という共通の性質を持つのか?しかも、マウスとヒトでこの性質は保存されている。今後自閉症関連遺伝子とは何かを理解し発症メカニズムを考える上で大きなヒントになるのではないだろうか。
2) 孤発性の自閉症の多くで、エクソン4が欠損したCPEB4mRNAが増えており、この変化が比較的多くの自閉症で見られることを示したこと。これは症状の多様性にも関わるし、今後なぜこの変化が起こるのか追求が待たれる。
3) そして、エクソン4の欠損したCPEB4だけが自閉症関連遺伝子の翻訳を抑えることがわかり、マウスとヒトを同じように調べることができる。

など、この分野に重要な貢献になるのではと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ