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10月6日:ミトコンドリア病の遺伝子治療(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2018年10月6日
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ミトコンドリア病については、一度ニコニコ動画で取り上げたが、一般の方にはなかなか理解しにくいことが多いのではないだろうか。ミトコンドリア(Mt)は細胞自体からは反独立した小器官で、自らの活動のための独立した遺伝子も持っている。さらに、これらの遺伝子に突然変異が起こる場合も、全てのMtが変異型に変わるわけではなく、そのため異なるゲノム構造を持つMtが一個の細胞の中で共存するヘテロプラスミーと呼ばれる状態が起こり、変異があっても、そのMtが正常と比べて優勢になるまで症状が出ない。また、症状が出る場合も、全ての組織で同じように異常が発生するのではなく、高いエネルギー代謝を必要とする、脳や網膜、心筋などが選択的に侵されることになる。

ミトコンドリア病の治療は当然変異遺伝子をもとに戻すことが究極の治療だが、ヘテロプラスミーの状態を考えると、変異Mtを減らして、機能的Mtを増やすことで症状の改善が望める可能性がある。今日紹介するマイアミ大学からの論文はこの可能性を動物モデルで探った研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「MitoTALEN reduces mutant mtDNA load and restores tRNA Ala levels in a mouse model of heteroplasmic mtDNA mutation (MitoTalenは変異ミトコンドリアの比率を減らし、マウスモデルのミトコンドリア変異でtRNA-Alaを回復させる)」だ。

この研究が治療対象にしたミトコンドリアゲノムの変異は、5024番目のCがTへと変化した変異で、この結果Alaninに対するtRNAが不安定化する。変異の性格から、激烈な症状が出るわけではなく、高齢になってから心機能が侵されることが主症状になっている。 この変異を持つMtを、彼らがMitoTalenと呼ぶミトコンドリア特異的遺伝子編集法(CRISPRとは異なる)を用いて生体内でも細胞から除去できるか調べている。

TALENとよばれる編集法の原理については説明を省略するが、2本の相補的合成DNAを用いてDNA分解酵素のユニットが出会うように設計して、特異的配列を持つDNAを分解させる。このとき、ミトコンドリアに選択的にTALENが取り込まれるよう設計している。この2種類のTALENをアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)に組み込んで、筋注、あるいは全身投与で、変異ミトコンドリアの比率が減り、症状の改善があるかを調べている。

結果はかなり有望だ。まず筋肉注射をした実験では、MitoTalenで治療した群では。変異Mtの比率が24週まで徐々に低下し、最終的に20%程度に抑えられている。これは、変異Mtが除去され、正常Mtが期待通り増加していることを意味している。さらに同じような効果が、静脈注射でも得られている。したがって、心筋や骨格筋を標的にするとき、全身投与が可能であることを示している。また、異常Mtの低下を反映して、tRNA-alaの数も正常化していることから、正常Mtと競合させるという戦略が十分治療に仕えることを示している。

今回調べられたモデルマウスは、もともと症状が少ない。おそらく、より重症で早期に病気が発症するケースについては、早期診断、早期治療が必要になると思う。ミトコンドリア病は、眼科領域にも多いため、おそらく局所投与に向くという意味では実用化も早いかもしれない。遺伝子編集の医療応用は着々と進んでいることがよくわかる。
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