10月26日:ネットでの情報収集で温暖化問題への意見を変えられるか?(米国アカデミー紀要掲載論文)
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10月26日:ネットでの情報収集で温暖化問題への意見を変えられるか?(米国アカデミー紀要掲載論文)

2018年10月26日
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自然現象についての科学的解釈には本来党派性は無関係だ。ところが科学が進んで、現象について何らかの対応が可能になると、途端に党派性が生まれてしまう。その典型が、地球温暖化問題だろう。

いま党派性から世界を見ていると、未来より現在を重視する党派と、現在をある程度犠牲にしても、未来をより重視する党派に分かれつつあるように思う。例えば原発は是か非かを考えるとよくわかる。この問題は、安全性や経済性について議論すると、水掛け論に終わり結論が出ない。しかし私の個人的意見だが、原発も、大きな電力を生産し、それをトップダウンで順々に分配するという、20世紀の階層性の遺物の典型だから、未来には必要ないと考てみたらどうだろう。一方、自然エネルギーは、階層的ではない新しいpeer-to-peer型ネットワーク構築に向けた未来の投資だと考えられる。ただ、こちらを選択すると現在の社会構造ををかなり否定することになる。

青い議論だとしても、未来か今かで判断すれば、以外とわかりやすい。20世紀の階層性を廃棄して、新しいネットワーク型社会へ投資するとすると決めれば、いくら原発が温暖化問題にとってはクリーンエネルギーだとしても、21世紀の選択にはならない。このように整理して行くと、原発支持=化石燃料支持になり、原発を重視した民主党時代のエネルギー政策でも、20世紀型になる。

しかし、いま世界は十分な余剰資本が投資先を求めてうろうろしているのに、未来を考える余裕がますます失われ、現在重視へ世界中が舵を切り始めているように思ってしまう。

ちょっと愚痴が長くなったが、今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、地球温暖化問題を例に、いわゆる現状重視のポピュリズム政党支持者が、温暖化を警告する科学的意見を受け入れられるのか調べた一種の社会調査で米国アカデミー紀要にオンライン掲載された。タイトルは「Social learning and partisan bias in the interpretation of climate trends (温暖化問題に関する社会学習と党派バイアス)」だ。

わかりやすく言うと、トランプ支持者が地球温暖化に関するデータを受け入れられるのかという話になるが、もし温暖化が起こっていないと言うデータを見せられた時、サンダース支持者がそれを受け入れるかにそっくり代えて考えることもできる。ただ、私自身は温暖化が進んでいると思っているので、特に前者の問題として読んでいる。

さて調査の内容だが、1979年から2013年にかけて北極の氷の量の推移を示したグラフ(1996年から急速に低下しており現在はピークの6−7割に落ちている)が、このNASAのデータをみて将来さらに悪化すると思うかどうか、保守党支持者と民主党支持者で比べている。実験前で調べると、保守党支持者では6割、民主党支持者では75%が温暖化が悪化すると思っている。確かに意見が大きく分かれているが、共和党支持の半数以上が温暖化を心配しているのを知り、安心した。

次に、参加者を共和党と民主党支持者が同数参加するネットワークに参加して、そこから情報を得て学ぶという状況を実験的に作り、温暖化について周りの個人的意見や、あるいは平均した意見が入ってくるようにして、温暖化に関する自分の考え方がどう変わるか調べる。この時、意見の出所の支持政党がわかるようにしたネットワークと、支持政党がわからないようにしたネットワークに参加させたグループで、考えの変わり方を調べている。

この凝った実験系でわかった最も重要なことは、支持政党など党派性がわからないネットワークに参加している場合は、個人の支持政党にかかわらず温暖化に対する意見が大きく変わる。実際、共和党支持者でもトライアルが進むと9割近くが温暖化は深刻だと考えるようになる。すなわち社会学習は重要だという結論だ。ただ、もっと重要なのは、少なくとも温暖化問題に関していえば、意見と支持政党が連結してわかる場合でも、変化は小さいとはいえ、それでも共和党員、民主党ともに10%ほど温暖化は深刻だと考え方を変えている。すなわち、ネットで情報を得ること自体が、党派性をある程度克服できるという結論になっている。

もちろん課題によって結果は異なるだろう。また、共和党ではなく、トランプ支持者に限って調べれば結果は異うかもしれない。それでも、科学的なデータがある場合、おそらくどんなに政治家が強い意見を発しても、市民はいつか問題を認識するという実験で、個人的には励まされた気がした」。
カテゴリ:論文ウォッチ