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11月5日 CDK9のガン標的分子としての可能性(11月15日号Cell掲載論文)

2018年11月5日
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最近は癌治療というと免疫療法という話になり、分子標的の話は少なくなった気がするが、もちろん今も開発は進んでいる。薬剤開発というと、スクリーニングで効果が見られる化合物が見つかればいいと思ってしまうためか、メディアでも、「XXX過程に効果がある化合物が2種類見つかった」という報道をよく見かけるが、実はChemical Biologyといって、化合物から考えもしなかった新しい生化学過程が明らかになる可能性があり、それが最も面白い。

今日紹介するテンプル大学からの論文はその典型で、これまで誰も気づかなかった新しいガン化に関わる過程を教えてくれる面白い研究で、11月15日号のCellに掲載された。タイトルは「Targeting CDK9 Reactivates Epigenetically Silenced Genes in Cancer (CDK9を標的にすることでガンでエピジェネティックに抑制されている遺伝子を再活性することができる)」だ。

骨髄異形成症候群をはじめとする多くのガンで、遺伝子発現が強く抑えられることが癌の増殖に寄与していることがわかり、DNAメチル化阻害剤や、ヒストンアセチル化阻害剤など、エピジェネティック修飾に介入する化合物が実際に治療に用いられ、またさらなる開発が続いていることはこれまでも紹介してきた。このグループは、直腸癌細胞株を用いてDNAメチル化により抑制されるプロモーターに蛍光タンパク質遺伝子を結合させ、抑制が外れたら光が発する実験系で化合物スクリーニングを行っていた。この系では、当然DNAメチル化阻害剤や、ヒストン脱アセチル化阻害剤は効果があり、エピジェネティック抑制機構に関わる分子探索に最適化されている。

この中でヒットした化合物の中にアミノチアゾールを核とする化合物が5種類リストされてきたが、この構造はこれまでエピジェネティック過程の様々な阻害剤とは全く相同性がなく、検討を加えた結果、これが細胞増殖や、RNA鎖伸張など細胞の基本過程で重要な働きを持つリン酸化酵素CDKに対する阻害剤、その中でもCDK9に対する作用が強いことが明らかになった。詳細は省くが、この結果に基づき同じ構造を持つ化合物から最終的にCDK9抑制効果が最も強い化合物も特定している。 CDK9はRNAポリメラーゼのセリン2をリン酸化することでRNAの伸長に関わる重要な分子であることはこれまで知られていたが、エピジェネティックな過程に関わることは全く知られていない。そこで、この効果の生化学的背景を検討し、CDK9は染色体を調節する大きな分子複合体SWI/SNFの中のBRG1と呼ばれるATP-依存性DNAヘリカーゼを標的にしていることを明らかにしている。実際CDK9をノックダウンすると、全ゲノムに渡ってそれまで抑制されていた様々な遺伝子の発現が再活性化されることが明らかになった。これらの遺伝子は、DNAメチル化を抑制した時に再活性化される遺伝子とよく似ている。また、染色体構造をATAC-seqと呼ばれる方法で調べると、CDK9抑制で染色体構造が緩んでオープンになることが明らかになった。これらの結果から、CDK9はまず染色体をオープンにし、これにより遺伝子発現を再活性化する。この時、DNAメチル化を外すメカニズムも同時に活性化され、その結果DNAメチル化も抑えられるというシナリオを示唆している。すなわち、CDK9阻害は、エピジェネティック機構に二重に介入できることがわかる。

とするとガン治療に利用することが期待されるので、いくつかのメチル化阻害剤が効果があるガンで、CDK9も効果を持つことを確かめている。また、ゲノム全体で抑制が外れると、内因性のレトロウイルスなどが再活性化することが予想されるが、実際に行くつかのウイルスの転写が上昇する。これ自体は、少し心配な話だが、著者らは内因性ウイルスにより自然免疫が活性化するため、がんの治療にはいい方向に働くと結論している。

いずれにせよ、CDK阻害剤は今や様々ながんの治療薬として使われようとしているが、この思わぬ効果を相加的に使えると、いい標的薬が可能になるかも知れない。特に骨髄異形成症候群や、骨髄移植ができない顆粒球性白血病の治療に、メチル化阻害剤と併用する可能性などは、結果を早く知りたいところだ。
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