12月2日:普通の人でアルツハイマー病が始まるメカニズム?(Natureオンライン版掲載論文)
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12月2日:普通の人でアルツハイマー病が始まるメカニズム?(Natureオンライン版掲載論文)

2018年12月2日
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アミロイドタンパク質などの突然変異によりアルツハイマー病が誘導されることは疑いのない事実で、確実に発症させたい動物モデルの場合、ほぼ100%遺伝子変異マウスを用いている。しかし、多くのアルツハイマー病は、特に遺伝的な素因もなく一見全く正常な人にも突然襲ってくる。しかも、一旦アルツハイマー病を発症した人では、脳細胞にアミロイドβのような異常タンパク質が蓄積しているのは明らかなので、正常脳細胞のアミロイド前駆タンパク質(APP)におこった体細胞突然変異がアルツハイマー病の原因ではないかと考えられてきた。ただ、突然変異を持った細胞が他の細胞より増殖するガンと違って、遺伝的変異が起こっても細胞が増えるとは思えないアルツハイマー病では、変異が病気発症につながる道筋を考えるのは難しい。

今日紹介する米国Sanford Burmham Prebys医学研究センターからの論文は、アミロイドタンパク質をコードする遺伝子が、レトロウイルスのように組み替えで増殖することがアルツハイマー病の原因になっている可能性を示す恐ろしい研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Somatic APP gene recombination in Alzheimer’s disease and normal neurons (アルツハイマー病と正常人でのアミロイド前駆タンパク質の体細胞組み換え)」だ。

この研究ではまずアルツハイマー病の患者さんの脳細胞でAPPが本当に変異しているのかどうか調べている。ただ脳細胞は増殖しないので、同じ変異を異なる脳細胞が持っている可能性は少なく、ゲノム解析でこのような変化を見つけることは困難が予想される。そこで、異常タンパク質の原因となるようなmRNAが存在するのか、前頭前皮質からの神経細胞を精製し、50個づつにわけ、それらの細胞が発現している変異型のRNAを探している。そして期待通り、全てのサンプルで、12種類の変異RNAを特定するのに成功し、そのうち5種類はタンパク質へと翻訳できることを示している。しかも、これら変異タンパク質は途中のエクソン・イントロンが喪失した、短いcDNAであることがわかった。

次にこれらの異常RNAが作られる過程を調べ、異常mRNAが正常遺伝子から転写されたのではなく、イントロンを持たないスプライシングを受けた後のcDNAが、ゲノムに多く存在していることを発見する(genomic cDNA: gencDNA)。これらが元々のゲノム遺伝子とは別にゲノム上に存在していることを、核DNAのin situ hybridizationで確かめ、アルツハイマー病の細胞では複数のコピーがゲノムの別の場所に存在する事を確認する。これらの結果は、APP遺伝子が一度転写された後、逆転写酵素でcDNAに転換され、それがゲノムに再挿入された可能性を示唆している。

しかも、このようなゲノムに挿入されたgencDNAは神経細胞だけに認められ、またアルツハイマー病で異常が起こることが知られている他の遺伝子では起こらない。このことから、APP遺伝子は、gencDNAを合成してトランスポゾンのように増幅されることがわかった。

この現象は、アルツハイマー病を発症した神経細胞だけでなく、正常人の脳細胞でも見られる。ただ、正常人の脳細胞ではアルツハイマー病の脳細胞と比べはるかにgencDNAの数は少ない。またアルツハイマー病の患者さんでは、病気の発症に関わることがわかっているAPP異常タンパク質をコードするgencDNAが増えていることがわかった。幸い、正常人の細胞では見つかっていない。

以上の結果は、アルツハイマー病では、APPmRNAが逆転写酵素でDNAへと転写され直し、それがゲノムDNAに挿入されると言う、レトロウイルスさながらの過程が神経細胞では起こることで、異常APP遺伝子が増幅できる事を示している。

この研究では、こんなことが本当に起こるのかについても、培養細胞を用いて確かめている。具体的には、発現ベクターを用いて一つのタイプの変異APP cDNAを導入、この遺伝子からgencDNAが作られ、ゲノムに挿入されるのか調べている。結果だが、どんな細胞でも、逆転写酵素を発現して、APPの短い異常型mRNAがが転写され、その上にゲノムDNAが加わると、gencDNAが新たに作られることがわかった。さらに、ヒトの異常APP遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの脳細胞でも、gencDNAができていることも示している。

以上の結果は、細胞が増えなくても、異常DNAがそれ自身でゲノム上で増殖していく事を示す恐ろしい結果だが、DNAの切断が脳細胞では起こりやすいことが知られており、説得力のある結果だ。なぜAPP遺伝子のみこんなことが起こるのかなど、わからないことも多いが、アルツハイマー病を考える上では、説得力がある。
カテゴリ:論文ウォッチ