1月9日 複雑なクロマチン3次元構造は複製時にどう再構成されるのか?(2月7日号Cell掲載予定論文)
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1月9日 複雑なクロマチン3次元構造は複製時にどう再構成されるのか?(2月7日号Cell掲載予定論文)

2019年1月9日
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転写や複製の基本的な仕組みについては、直接関わっていないと研究者でも意外とフォローしていない。私も現役の時はそうだった。ただ、現役をやめて広く論文を読むようになって、一番驚いたのは、核内で染色体が正確に折りたたまれ、また特異的な場所に納められていることで、TAD(topologically associating domain)の話として何度も紹介してきた。キーワードはHiCと呼ばれる立体構造の中で隣接する領域を特定する技術と、これを調節するCTCFなどの分子だが、私が現役の時代は読もうともしなかった分野だ。その意味で、今年も基礎の基礎と思われる領域も積極的に紹介していきたいと思っている。

今日紹介するのは、複製と染色体立体構造の両方の問題を扱ったフロリダ州立大学からの論文で、2月7日に発行予定のCellに掲載されている。タイトルは「Identifying cis Elements for Spatiotemporal Control of Mammalian DNA Replication(DNA複製の空間的時間的調節に関わるシス領域を特定する)」だ。

この研究の目的は、複製と核内の染色体の構造との関係を明らかにすることだが、そのために3次元構造とCTCFの結合が詳しく分かっている第16染色体の中央部にある領域に焦点を当てている。この領域には、ES細胞など未分化細胞の増殖に関わる重要な遺伝子が4種類も存在している。この領域は中央部に複製が早く始まるピークが存在し、そこから両サイドに複製のタイミングが徐々に遅れる構造になっている。

領域内の様々な部分を欠損させてこの複製タイミングのパターンが変化するか調べると、CTCF結合サイトを除去してもほとんどパターンは変わらないが、欠損すると複製のタイミングが早い領域が消えてしまう、著者らがEarly Replication Control Element(ERCE)と呼ぶ領域が、対象に選んだ領域内に3箇所特定された。そして、これらERCEが欠損すると、複製タイミングが遅くなり、TAD構造がはっきりしなくなり、そのゲノム領域が核内で転写が活性化されているAコンパートメントから、転写が抑制されるBコンパートメントにシフトすることが明らかになった。すなわち、複製タイミングを調節している領域は、その領域の核内でのトポロジーと場所決めに重要な領域であることがわかる。

またこのゲノム領域がAからBコンパートメントに移る結果、転写が強く抑制されるようになる。

最後に、ES細胞で同じようなERCEがゲノム全体にどのように分布しているのかについて、HiCのパターンや、転写の状態などから検索し、最終的に1835箇所のERCEを特定し、一部については同じような欠損実験を行い、 複製のタイミングを調節していることを確認している。

以上の結果から、今回特定されたERCEは複製のタイミングを調節するというより、TAD構造を維持し、染色体を転写が活性化されているAコンパートメントに局在させるのに重要な役割を持っており、核内のAコンパートメントの中で、隣接しあってネットワークを作っている。この結果ERCEが失われると、その領域が抑制的なBコンパートメントに押し込められ、結果転写だけでなく、複製のタイミングが二次的に影響されると結論している。要するに、CTCF結合部分だけでなく、染色体の核内での位置決めに関わるシス領域が見つかったという話になる。残念ながら、複製のタイミングを変化させる分子メカニズムについては、今回示しておらず、今後の課題と言える。しかし、CTCF以外に新しい染色体の活性化に関わるシス領域が発見されたことで、すぐに分子メカニズムも明らかにされると予想できる。しかし、この領域は頭の中でついていくのがますます難しくなっているのを実感する。

カテゴリ:論文ウォッチ