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1月28日 Brachyuryは脊索腫に必須の転写因子(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2019年1月28日

古い世代の発生学者にとってbrachyuryという分子は、他の分子より大きなインパクトを持っていたと思う。もともとマウスの尾が短くなる突然変異として単離されたが、突然変異の解析から、当時の発生学が最も集中して研究していた中胚葉、特に脊索の発生に異常が起こることがわかり、早く遺伝子が何か知りたいと皆考えていた。1990年HerrmannとLehrachによって遺伝子がクローニングされた。私たちも熊本大学で、大理石病マウスの遺伝子を特定していたので、Hans Lehrachには何回か小さな発生遺伝学の会議で話を聞くことができた。このbrachyury遺伝子がマウスのprimitive streakに綺麗に発現しているのを見て、是非中胚葉分化も調べてみたいと思ったのを今でも覚えている。この希望は京都大学に移って実現できた。

今日紹介するハーバード大学からの論文はこのbrachyuryが発生に関わる腫瘍、脊索腫の話でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Small-molecule targeting of brachyury transcription factor addiction in chordoma (脊索腫のbrachyury転写因子強依存性を標的にした小分子化合物)」だ。

脊索は発生途上で消失するが、極めて稀に完全に消失しないで細胞が残ってしまうと脊索腫を作ると考えられている。すなわち脊索腫は奇形腫の一種と考えられる。発生学から考えて、当然この腫瘍にbrachyuryが重要な役割を演じることが推察されており、実際brachyuryが重複している場合に脊索腫の発生率が高まることが知られているし、他にも脊索腫の中にはbrachyuryのコピー数が増えているケースもある。しかし、多くは特に遺伝子変異はなく、brachyury依存性と決まったわけではなかった。

この研究ではまずCRISPR-Cas9を遺伝子ノックアウトに用いるスクリーニングで、脊索腫の増殖が低下する分子を探索し、最も強く増殖が抑制されるのがbrachyuryが欠損した時であることを見出す。

ただ、brachyury自体に特に変異があるわけではないので、この分子を標的にするためには遺伝子発現を抑える必要がある。そこで、brachyuryを強く誘導するエンハンサーを低下させる化合物が見つかるのではないかと、脊索腫の増殖を指標にスクリーニングを行い、期待通り、一般的な増殖阻害剤だけでなく、転写を抑制するCDK7やCDK9阻害剤を特定する。

これまでの研究で、CDK7やCDK9はスーパエンハンサーの形成を阻害して、転写を抑え、その結果細胞の増殖を低下させることがわかっていた。そこで脊索腫についてスーパーエンハンサーがどの遺伝子に形成されているのかを調べ、予想通りbrachyury遺伝子にスーパーエンハンサーが形成されていることを確認する。

最後にCDK7/9阻害剤が脊索腫の増殖を抑制する理由が、brachyury遺伝子の調節領域に形成されるスーパーエンハンサーが維持できなくなり、brachyuryの発現が低下するためで、スーパーエンハンサーの影響を受けない外来のbrachyuryを過剰発現させることで、増殖は部分的に回復できることも示している。

脊索腫はゆっくり増殖するが、浸潤性が高く、放射線抵抗性が強いため、治療が難しいが、CDK7/9阻害剤は多く開発されているので、是非臨床治験がうまくいくことを願っている。

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