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2月24日 正常な睡眠がアルツハイマー病予防に必要な理由(2月22日号Science掲載論文)

2019年2月24日

先日運動がアルツハイマー病の症状を改善してくれる理由の一端を突き止めた研究を紹介したが、その逆、すなわち睡眠異常がアルツハイマー病の発症に関わるという多くの論文が発表されている(例えばhttp://aasj.jp/news/watch/8330)。ただ、これらは一種の観察研究で、なぜ睡眠が妨げられるとアルツハイマーリスクが高まるのか、その因果性について調べる研究はまだ始まったばかりだ。

一つの切り口は、睡眠が起きている時脳で生成した様々な老廃物を除去するのに重要な働きをしていることの認識だ(http://aasj.jp/news/watch/608)。アルツハイマー病はβアミロイド蛋白やTau蛋白が蓄積する病気なので、このような厄介者を少しでも外に排出することは当然重要だ。今日紹介したいワシントン大学からの論文は睡眠によって脳脊髄液中のTauタンパク質も睡眠と並行して日内変動しており、睡眠が妨げられると蓄積することを示すちょっと恐ろしい研究で2月22日号のScienceに掲載された。タイトルは「The sleep-wake cycle regulates brain interstitial fluid tau in mice and CSF tau in humans(睡眠と覚醒のサイクルによってマウスの脳組織間液、およびヒトの脳脊髄液のTauレベルが調節されている)」だ。

研究は極めて単純で、まずマウスの脳組織の間質液中に含まれるTauの量を図るとβアミロイド蛋白や脳の活動を示す乳酸と同じようにTauのレベルも活動と睡眠により上下すること、Tauの変化の方がβアミロイド蛋白よりはるかに大きいこと、また脳の活動をテトラドトキシンで抑えるとこの変動がなくなることを明らかにする。もともとβアミロイド蛋白は細胞外に出ているので蓄積してもいいと思うが、細胞内にあるTauが細胞外液に分泌され、しかも変動が大きいというのは驚きだ。同じように、人間の脳脊髄液を採取させてもらって同じように日内変動を調べると、朝起きる前が一番低く、その後活動とともに上昇する。

次に、眠ろうとするとつついて眠りを妨げる実験を1ヶ月繰り返して調べると、休んでいる時間でもTauのレベルは高くなることを示し、睡眠がTauのレベルが上がらないようにしていることを明らかにしている。

ただ、このような手でつついて起こすという実験はストレスも大きいので、最後に脳細胞に化合物で活性化される受容体を導入して、薬で眠れなくしたマウスを作成し、薬で眠れない場合も細胞間液中のTau分子のレベルが高まることを示している。実験的にはこの凝った実験系に力が入っているが、結論は原始的な実験と同じだ。

他にも眠りが妨げられると、細胞毒性を持った沈殿型Tauがシナプスを通って伝搬しやすくなることも示しているが、この実験は話を複雑にしただけだと思う。

この研究はあまり原因について議論していない。というより、脳活動がTau分泌を促し、排出は蓄積にあまり関わらないという立場だ。とすると、眠りの効果は神経活動を抑えることになる。Tauもβアミロイド蛋白も神経の活動が続くと細胞外に蓄積することは確かなようだし、沈殿型Tauがシナプスを超えて伝搬するのも神経活動が重要なようだ。しかし個人的に考えると、やはりこれら分泌されたタンパク質を外部へと洗い流すことも重要ではないかと思う。

結局この研究からわかるのは、正しい睡眠を取れという話だけで、それができない人たちの救いにはならないようだ。しかし、長期変化だけ問題にしてきたTauやβアミロイド蛋白がこれほど上下しているのかと思うと、恐ろしい。

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