過去記事一覧
AASJホームページ > 2019年 > 3月 > 17日

3月17日 嚢胞性線維症の機能異常を、既存の薬剤で治療する可能性(Natureオンライン版掲載論文)

2019年3月17日

嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis:CF)は病気の名前からつけられたcystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR)と呼ばれる細胞内から塩素イオンを排出するときのチャンネルをコードする遺伝子の変異によって起こる遺伝疾患で、気管内の水分を維持できず、肺炎が繰り返され、気管支拡張症になる病気だ。遺伝子疾患で、気管上皮が到達可能な場所にあるため、遺伝子治療の対象として様々な方法が開発され、一部は臨床治験が行われている。

もう一つの方法が、CFTR分子の細胞膜上への発現を促進する薬剤と、このチャンネルを開きやすくする薬剤を組み合わせる方法で、以前紹介したように(http://aasj.jp/news/watch/3450)臨床治験データでは有効性が認められており、遺伝子治療以外の薬剤としてはほぼ独占状態にあると言える。

今日紹介するイリノイ大学からの論文は、後者と同じような戦略だが、CFTRに働きかけるのではなく、気管上皮に炭酸水素塩HCO3 を排出するチャンネルを既存の化合物で形成し、CFTRの機能を独立に助けようとする考えの論文で読んでグッドアイデアだと思う。タイトルは「Small-molecule ion channels increase host defences in cystic fibrosis airway epithelia(低分子化合物によるイオンチャンネルは嚢胞性線維症の気管上皮の防御力を高める)」で、Natureオンライン版に掲載された。

さてその化合物だが、なんと私にも馴染みのあるアムホテリシンB(AmB)だ。この薬剤は私が学生の頃から存在する細菌由来の抗生物質で、薬剤の存在しない真菌症に使える唯一の薬剤だった。医師として働いている時、その作用機序など考えもしなかったが、この論文によると細胞膜上でイオンチャンネルを作ると同時に、ステロールを膜から除去することで真菌に対する殺菌効果を示すとされていた。ただ、このグループは、実際の抗真菌作用はステロールの除去に依存していることを明らかにしていたようだ。そしてステロールに影響のない低濃度のAmB、あるいは最初から過剰のステロールと結合させたAmBではイオンチャンネルだけ膜上に形成させられることを発見している。

そして、このチャンネルでCFTRの機能低下を補えないかを調べたのがこの研究だ。まず炭酸水素イオンを通すことを確認した上で、CF患者さん由来の気管上皮細胞を用いてASLと呼ぶ細胞表面の水分を指標に効果を確かめている。

結果は上々で、ASLの粘度は低下し、pHは上昇し、さらに緑膿菌に対する抵抗力が上昇する。さらに、臨床用に開発されたリポソームに封入したAmBを用いることでより高い、長期の効果が得られ、嚢胞性線維症モデルの豚に経気管的にエアロゾル化したリポソームAmBを投与し、気管ASLのpHを上昇させることを明らかにしている。

話はこれだけで、まとめるとAmBのような特異性のないイオンチャンネルでも、細胞側のイオン勾配に基づいて働いてくれると、CFTRの様な特異的チャンネルの異常を補ってくれる可能性を示し、現在行われている治療と比べ、かなり安価な嚢胞性線維症の治療が可能であることを示した重要な研究だと思う。もちろん、医師なら誰でも知っているように、AmBには強い副作用があるが、経気管的に投与すること、さらに体内には吸収されにくいリポソーム封入を使うことで、副作用はかなり抑えられるような気がする。着想が面白い点、そして安価な治療という点で、早く治験を進めてほしいと思う。ともかく新薬が開発費の関係で高価にならざるを得ない今日、このような可能性は大歓迎だ。

カテゴリ:論文ウォッチ
2019年3月
« 2月   4月 »
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031