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3月19日 GAS-STING自然免疫刺激経路は、実はオートファジー刺激経路として始まった(Natureオンライン掲載論文)

2019年3月19日
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細胞内にDNA断片が存在すると、cyclic GMP-AMP 合成酵素GASが働いて、cyclic GMP-AMP(cGAMP)が合成され、これがSTINGアダプタータンパク質を活性化、その後TBK1,IRF1, IKKなどを介してインターフェロンや炎症性のサイトカインを作る自然免疫経路は、がん免疫、自己免疫などとの関わりで、今最も注目されている分野だ。

今日紹介するテキサス大学サウスウェスタン医学センターからの論文は、自然免疫のトリガーとして注目されているGAS-STING経路が、本来はオートファジーの刺激センサーとして進化してきたという面白い可能性を示唆する研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Autophagy induction via STING trafficking is a primordial function of the cGAS pathway (STINGの細胞内移動を介するオートファジーの誘導はcGASによりトリガーされる経路の原始的な機能)」だ。

研究では、阪大の吉森さんたちの仕事により、オートファゴゾーム形成の分子標識として使われるようになった微小管結合タンパク質LC3を用いてオートファジーをモニターし、DNAウイルスの感染により自然免疫だけでなく、オートファジーも誘導されることを発見した。

次にSTINGの下流で活性化される自然免疫経路と、オートファジー経路を区別できるか調べる目的で、C-末端を除いたSTINGを細胞に導入すると、自然免疫経路の活性化能力は失われるのにオートファジーは誘導されることを示している。すなわち、同じSTINGによりトリガーされるが、両方の経路は完全に分離できる。

この著者らはこのシステムの進化に注目し、この研究のハイライトと言える一番面白い発見をする。すなわち、イソギンチャクのSTINGには自然免疫を誘導するC末端部分が欠けており、TBK1の活性化が起こらないが、LC3を活性化してオートファジーを誘導する能力があることを発見する。すなわち、GAS―STING経路は本来オートファジーを誘導する仕組みとして進化したことを示している。さらに、脊髄動物の中にもアフリカツメガエルのようにC末端の欠損した自然免疫を誘導できないSTINGが存在することも示している。何れにせよ、オートファジー誘導については、すべての種のSTINGは有しているようだ。

あとは、STINGがLC3を活性化してオートファジーを誘導するメカニズムを明らかにするため、その細胞内の動きを追跡し、小胞体とゴルジの境に移動した後、そこでLC3のファゴゾームとの結合ができるよう、脂肪酸を添加し、オートファジーを誘導することを示している。

以上のことから、GAS-STINGはまずオートファジーを誘導する新しい仕組みとして最初進化したことになるが、DNAの断片が蓄積する条件でSTINGを活性化してオートファジーを誘導すると、DNAが処理されるので、DNAの除去がその機能の一つであることを示している。そして、ウイルス感染においても、自然免疫より重要な機能をGAS-STINGで誘導されるオートファジーが担っていることを示している。

GAS―STINGは自然免疫のトリガーとして、炎症性サイトカインとの関わりで研究されているが、オートファジー誘導能力の方が進化的に古く、ウイルスなどのDNAを直接除去するシステムであることは、自然免疫の進化を考える上でも極めて重要な発見だと思う。

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