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3月22日 抗インフルエンザ抗体と同じ作用を持つ薬剤の開発(3月8日号Science掲載論文)

2019年3月22日

インフルエンザは毎年世界規模で見ると何十万もの命を奪う、医学の重要な標的だ。現在のところ季節ごとにワクチンを接種するしか方法がないが、最近になってウイルスが宿主に侵入するときに必要なHA(血液凝集素)に多くのインフルエンザ共通の分子構造があり、これに対する抗体がインフルエンザ普遍的予防薬として用いられる可能性が浮上している。

これまでタミフルなどのNA(ニューラミナーゼ)阻害剤も予防効果を謳って上梓されたが、その後治験データが精査され、予防効果はなく、また抗インフレンザ作用も中程度とされている。わが国では今も多くの医師が処方しているが、これは米国CDCのガイドラインに反する行為と言ってもいいぐらいだ。

何れにせよ、予防という意味では現在治験が進むインフルエンザ普遍的抗体への期待が大きいが、抗体薬は静脈注射が必要で、インフルエンザほどの規模になると、利用が難しい。したがって、なんとかこの部分に対する抗体を誘導できるワクチンができないか研究が続いている。

今日紹介する創薬メーカー、ヤンセン・ファーマの予防医学研究所からの論文は、これまでの方法とは異なる方向、すなわちこのHAに対する抗体と同じ効果を持つ経口薬の開発にチャレンジした研究で3月8日号のScienceに掲載された。タイトルは「A small-molecule fusion inhibitor of influenza virus is orally active in mice(マウスで経口投与可能なインフルエンザのホストへの融合を阻害する化合物)」だ。

これまで抗体の代わりにウイルスを細胞膜と融合させるHAの活性部分に対するペプチドが開発され、構造解析の結果HA共通に保存されている部位に結合することがわかっていた。この研究では、このペプチドとHAの結合を阻害する分子を50万種類の化合物からスクリーニングし、そうして見つけてきたリード化合物を、順番に至適化して、最終的に経口投与可能な化合物JNJ4796に到達している。この辺は、メディシナルケミスト出ないと理解し難いところだが、その過程を私たちにもわかるように説明してくれている。

こうしてできた薬剤がインフルエンザ感染を阻害するかどうかマウスを用いて調べ、10mg/kgを投与すると、マウスを致死的なインフルエンザ感染から守ることが確認された。また、結合度は異なるものの、ほとんどのグループ1HAに結合することから、多くのタイプのインフルエンザに機能することが示されている。

最後にJNJ4796とHAの結合の詳しい構造解析が行われており、結合領域が広く浅いことが示されている。また、結合性の弱いHAやグループ2HAと結合しない理由なども構造的基盤を示している。

素人なりにざっと見たところ、まだまだ人間に進むには難しそうだなという感じを持つが、実際この化合物の治験は始まっていない。製薬会社の研究室からなので、ひょっとしたらこれ以上の開発を諦めたのかなどとも勘ぐるが、アイデアは十分評価できる。現在多くの抗体藥が開発されているが、うまくやればその中に一部を経口剤に変えることは可能だ。その意味で、将来より安価な薬剤を可能にするためには重要な技術だと思った。

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