3月23日 高果糖コーンシロップは腫瘍細胞にも甘い(3月22日号Science掲載論文)
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3月23日 高果糖コーンシロップは腫瘍細胞にも甘い(3月22日号Science掲載論文)

2019年3月23日
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最近いくつかの国で規制が始まっているが、トウモロコシから抽出したデンプンを化学的処理して、甘みの強い果糖の濃度を高めたコーンシロップは、甘味料として炭酸飲料等多くの食品に使われている。最初グルコースを摂取するより健康的と考えられていた高果糖コーンシロップ(HFCS)が、最近は肥満や2型糖尿病の原因である可能性を示すエビデンスを報告する論文が増え、食品メーカーは防戦一方のようだ。守る側は、砂糖として摂取しているショ糖にも多くの果糖が含まれること(イギリスではショ糖を減らすことにも取り組んでいる)、構造的にも代謝的にもブドウ糖と同じであり、果糖だけを悪者にする根拠はないと説得に努めたようだが、実は果糖の代謝についてほとんどが肝臓で代謝されるとする従来の通説は間違っており、小腸でグルコースに転換されることを示す論文が昨年2月プリンストン大学から発表され、私も紹介した(http://aasj.jp/news/watch/8072)。すなわち、果糖の栄養学的問題については科学的研究がまだまだ必要なことがはっきりした。

今日紹介するNYコーネル大学からの論文は、HFCSが消費量が肥満だけでなく、大腸ガンの発症と並行して上昇していることに注目し、小腸で処理しきれなかった果糖は大腸に移って直接上皮に働きかけ、発ガンのスイッチが入った大腸上皮細胞の増殖を高めることを示した論文で3月22日号のScienceに掲載された。タイトルは「High-fructose corn syrup enhances intestinal tumor growth in mice(高果糖コーンシロップはマウスの腸に発生した腫瘍細胞の増殖を促進する)」だ。

まずこの研究で用いられたガンモデルは、腸の上皮の増殖を抑えるAPCと呼ばれる分子を欠損させたマウスを用いており、発がんと言う点ではすでにスイッチを入れてあるマウスの実験系だ。人間でいうと多発性大腸ポリポーシスと呼ばれる大腸に多くのポリープができる遺伝病のモデルと言える。さて、このマウスにHFCSを摂取させると、ポリープの数が上昇し、さらにポリープの悪性度が高まる。

次にアイソトープ標識した果糖を用いて、APCが欠損した腫瘍細胞でだけ果糖が存在するとブドウ糖も取り込みが高まること、furctokinaseの作用でリン酸化果糖が合成される過程で細胞内のATPが低下し、これが引き金となって腫瘍細胞でのブドウ糖代謝を高めることを明らかにしている。

そして、ブドウ糖代謝の上昇により脂肪代謝が高まり、増殖に必要な膜成分をはじめ様々な分子が合成され、がん細胞の増殖を高める直接の原因になっていること、そしてこのブドウ糖代謝の上昇は、ブドウ糖を多く摂取することで起こるのではなく、果糖がfructokinaseでリン酸化されることで起こることを証明している。

また、一般的に大腸ガンは肥満と関係することが知られているが、このガン細胞の増殖を高める効果は、果糖の作用で、肥満とは分離できることも示している。

以上の結果は、果糖が肥満でもガン細胞増殖でも、それ自体ではなく、ブドウ糖代謝を高めることで問題を引き起こすことがわかる。逆に、furctokinaseを阻害さえすればこの問題は解決するが、屋上屋を重ねるより、果糖の摂取を制限したほうがいいだろう。

以上、高果糖コーンシロップを使う多くの食品メーカーにとっては耳の痛い話だと思うが、やはり真剣に対策を練ったほうがいいと思う。一方、この研究はけっして果糖にタバコのように発がん性があることを示しているのではなく、あくまでもガンへの遺伝的スイッチの入った細胞に選択的に働き、代謝を変化させて増殖を促進することを理解する必要があること、すなわち発ガン性が無いことはよく理解しておく必要がある。

私も美味しいものに目がない貪欲な人間だが、脳を満足させるために体を犠牲にするのは人間の性のようだ。

カテゴリ:論文ウォッチ