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3月1日 自閉症児の恐怖症をバーチャルリアリティーで取り除く(2月15日Journal of Autism and Developmental Disorders オンライン掲載論文)

2019年3月1日
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自閉症スペクトラム(ASD)の主症状は、社会的なコミュニケーションの困難と反復行動だが、これとともに半分の人たちで様々な対象に対する恐怖症がある。例えば、特定の場所を極端に嫌がったり、髭を生やした人だけを恐れたり、特定の動物を恐れたり、 一種の脳のアレルギー反応のように見える。そこで、アレルギー治療のように恐怖の対象を思い出して脱感作するCognitive Behaviour Treatment(CBT)治療法が試みられているが、想像することが苦手な子供はCBTで仮想的に脱感作を行うのは難しかった。

今日紹介するニューカッスル大学からの論文はCBTに映像を用いたバーチャルリアリティーを加えてASD児の恐怖症を取り除く治療法の開発で2月15日号Journal of Autism and Developmental Disordersにオンライン掲載された。タイトルは「A Randomised Controlled Feasibility Trial of Immersive Virtual Reality Treatment with Cognitive Behaviour Therapy for Specific Phobias in Young People with Autism Spectrum Disorder(ASDの若者の特定の恐怖症を取り除く没入型バーチャルリアリティーを組み合わせたCBT治療の可能性を確かめる不作為化対照試験)」だ。

タイトルからわかるように、この研究はBlue Room VREと名付けれれた特許化された360度全面に映像が映る部屋と、その部屋で映写するソフトがセットになったシステムの治験研究で、この部屋で行われる治療の様子はYouTubeに掲載されている。(https://www.youtube.com/watch?v=9U-rRC8jc28

この研究では、8−14歳のASDの児童32人をリクルートし、ASDであることを確認した上で、各人の恐怖症の対象を特定している。実に様々な対象が恐怖症の対象になっており、ハチ、広い場所、エレベーター、犬、暗いところ、昆虫、見つめられること、天気の変化、風船、コウモリ、トイレ、車に乗ること、自動オモチャなど、驚くことにバナナまでその対象になっている。そして、それぞれの対象に応じたビデオプログラムを作成し、治療に提供されている。例えば広場の嫌いな子供には、そこに鳩が飛んでくるような設定で安心させるプログラムなど、結構工夫がいるように思える。

治療では、まずCBTの訓練を受けたセラピストと部屋に入り、海の中をイルカが泳ぐといったリラックスするセッションの後、その子の恐怖症に合わせたプログラムをセラピストとともに受けて、想像させるのではなく、実際の映像を見ながら反応を確かめ確かめ、恐怖症の対象に慣らしていく。この様子を親は室外のモニターで観察し、いつでも止めることができる。これを2回繰り返して、治療には全く無関係の医師が効果を判定している。

実際の診断スコアがどの程度の変化を意味するのか専門家でないので判断しにくいが、6ヶ月後に調べると40%近い子供に改善が認められた一方、コントロールでは全く変化がない。また、症状が悪化したケースは1例だけで、かなり高い効果があると結論している。

結果は以上で、12ヶ月目でも効果の見られた人のパーセントは変わっていないので、今後セッションを増やしたり、ソフトを変化させたりすることでさらに大きな効果が期待できるような気がする。

ASD治療の第一歩は、普通の人にはない様々な恐怖症を取り除くことであることを考えると、経験的とはいえ応用範囲は広い気がしている。

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