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4月8日: 同じメカニズムでもオプジーボとキイトルーダの効果は違うのか?(The Lancetオンライン掲載論文)

2019年4月8日
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確認したわけではないが、現在わが国で保険収載されている抗PD1抗体はおそらく2種類で、一つは小野薬品のオプジーボと、もう一つはメルク社のキイトルーダだと思う。両者がどのように選択されているのかよく知らないが、承認を受けるための治験での対象をうまく選ぶことで、差別化を図ろうとしている。例えば、マイクロサテライト不安定性の固形癌を選んで治験効果を示せたキイトルーダは、ゲノムの不安定性さえはっきりさせれば全ての癌に使える。ただ、いずれの場合も、メラノーマを除くと、他の治療がうまくいかない患者さんのみに使用が認められている。従って、化学療法や標的治療の前に使うことができるかどうかは、さらに使用を拡大させるためには重要になる。

例えば先日紹介した(http://aasj.jp/news/watch/9787)グリオブラストーマの手術前に抗PD-1抗体を使う方法は、治療を続ける判断を組織学的に検証できるので認可されていくのではと感じる。もちろん、未治療の患者さんで従来の化学療法と比較する治験も盛んに行われている。ただ、ステージIVの非小細胞性の肺がんについて行われたCheckmate国際治験では一般化学療法に対してほとんど優位性は認められなかったことが報告された(The New England Journal of Medicine 376:25, 2017)。この場合でも突然変異が多い肺がんでは明らかにオプジーボが優位性を示しており、患者さんを選ぶことが重要であることが示された。

驚いたことにオプジーボの代わりにキイトルーダを用いる以外はほとんど同じプロトコルの国際治験がThe Lancetに発表され、今度はチェックポイント治療に優位性が示されて驚いたので紹介する。タイトルは「Pembrolizumab versus chemotherapy for previously untreated, PD-L1-expressing, locally advanced or metastatic non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-042): a randomised, open-label, controlled, phase 3 trial (未治療進行性非小細胞性肺癌に対するキイトルーダと化学療法の比較:無作為化、オープンラベル、第3相試験)」だ。

オプジーボに対する治験とこの治験の違いは、ガンでのPD-L1の発現をはっきりと層別化している点と、もともと標的治療がよく効くALK変異、EGF受容体変異を除去している点だろう。実際、PD-L1の発現が低いガンではキイトルーダと化学療法の差はほとんどなくなる。半分以上のガンでPD-L1が発現している場合、3年目の生存率で40%に近い。一方化学療法では20%以下だ。もちろん再発があるかどうかで見ると、成績のいい群でも3年再発のないケースは10%近くに低下するので、なかなか根治とはいかないこともわかる。

話はこれだけだが、ともにPD-1を標的にしており、しかも免疫グロブリンのクラスもIgG4と同じオプジーボとキイトルーダで、結果がこんなに違うと使う方も戸惑うのではないだろうか。実際、理由はほとんど理解できない。おそらく、治験のちょっとしたプロトコルの違いでこんな結果が出るのではないだろうか。

プレシジョンメディシンの時代、やはりこれまでの治験と認可のあり方を真剣に議論する時期が来たように感じる。

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