過去記事一覧
AASJホームページ > 2019年 > 7月 > 8日

7月8日 ウイルス感染で脳に残される入れ墨(6月26日号Science Translational Mecidine掲載論文)

2019年7月8日

多発性硬化症は脳神経細胞のミエリンに対する自己免疫反応だが、多くの自己免疫病と同じで、病気が発症するまでのメカニズムはよくわかっていない。やはり他の自己免疫病と同じで、ウイルス感染が最初の引き金になる可能性は何十年も指摘されているが、一部の症例を除いてそれを示す動かぬ証拠は捕まらない。

今日紹介するジュネーブ大学からの論文は、この問題の重要な手がかりが示せたかもしれない動物研究で、6月26日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Brain-resident memory T cells generated early in life predispose to autoimmune disease in mice (脳にとどまっているメモリーT細胞が幼児期の感染で誘導され自己免疫病のリスクになる)」だ。

この研究では幼児期の一過性の感染が、脳に及ぼす影響を調べる目的で、神経感染症のモデルとして用いられてきた弱毒化したLCMV(実際にはウイルス自体ではなく、ベクターに組み込んだウイルスDNAを用いている)を脳に感染させ、基本的には感染部位の自然免疫が一過性に高まった状況を作っている。

この方法では生後1週間でも3−4週に感染させてもLCMV特異的なT細胞を同じ程度に誘導することができる。ところが成熟してから同じマウスに多発性硬化症を引き起こすT細胞を移入すると、幼児期に一過性の感染を経験したマウスは、症状でも病理的にも強い炎症が起こる。

この原因が、一過性の感染を起こした脳細胞自体になんらかの変化が誘導され、ニッチとして機能しているのかどうか、感染時にラベルする実験で、感染細胞を全て除去する実験を行なっているが、病気の発症は抑えられない。

結局、幼児期に感染したマウスの脳を、4週で感染させたマウスの脳と比べる実験から、CCL5ケモカインが浮上し、最終的にCCL5ケモカインを発現する局所メモリーT細胞が、幼児期に感染した病巣(すでに治癒している)を認識して止まって、全身に存在する自己抗原に反応するT細胞を脳内に流入させている可能性を突き止めた。また、このメモリーT細胞を局所にとどめているのが、クラスII MHCを発現する抗原提示細胞であることも示している。

すなわち、幼児期に細胞障害性でないウイルス感染が起っただけで、脳内に一種の入れ墨の様に抗原提示細胞とメモリーT細胞のセットが維持され、CCL5を分泌して自己免疫性のT細胞を脳に呼び入れるという話だ。最後にこの仮説を頭に実際の患者さんの組織を調べると、ほとんどの患者さんでメモリー型T細胞の存在が見られている。

遺伝子操作による細胞標識を駆使することで、幼児期の感染場所がわかる様にしたことで、メモリーT細胞と以前の病巣の相関が明らかにできたわけだが、細胞障害性がないウイルス感染だけでこの様なことが起こるとすると、まず発見することはできない。また、同じことは1型糖尿病などの他の組織の自己免疫病でもおこる可能性も高い。この入れ墨とも言えるマクロファージ+リンパ球の局在を誘導し、維持する機構を是非明らかにして欲しい。

カテゴリ:論文ウォッチ
2019年7月
« 6月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031