8月22日 頭が固くなるメカニズム(8月22日号 Nature 掲載論文)
AASJホームページ > 2019年 > 8月 > 22日

8月22日 頭が固くなるメカニズム(8月22日号 Nature 掲載論文)

2019年8月22日
SNSシェア

年をとると頭が固くなるとよく言われるが、機能を支える脳組織までが固くなっているとは、今日紹介するケンブリッジ大学幹細胞研究所からの論文を読むまで想像だにしなかった。タイトルは「Niche stiffness underlies the ageing of central nervous system progenitor cells (ニッチが固くなることが神経前駆細胞の老化の背景にある)」だ。

もともと著者らはOPCと呼ばれる脳に存在する多能性の幹細胞の老化について研究していた様だ。新生児と老化マウスから採取したOPCを通常の条件で培養すると、たしかに老化OPCの増殖は遅い。ただ、この性質が老化した脳という環境によって誘導された結果なのか、OPC自体の老化なのかを調べるために、老化OPCを新生児の脳に移植すると、若返って増殖能を回復することを発見する。すなわち、脳の環境が違っている。

このニッチによるOPCの老化の分子メカニズムを探るべく、老化脳と新生児脳の組織から全て細胞を取り除き、マトリックスだけにしてOPCを培養すると、ニッチは細胞ではなく、マトリックスにより形成されていること、そして実際にはマトリックスが硬いとOPCの老化が進むことを、コンドロイチナーゼでマトリックスを分解して柔らかくする実験で確かめる。すなわち、老化マトリックスも酵素処理で柔らかくすると、老化OPCが若返る。

そこで、ただOPCを培養する基質の硬さを変えるだけで同じことが起こるかどうか、硬さの違うハイドロゲルの上でOPCを培養すると、柔らかいハイドロゲルの上で培養した老化OPCが若返る一方、硬いハイドロゲルの上で培養した新生児OPCが老化することを発見する。

ここまでくると、細胞が硬さを認識するメカニズムが老化を決めていると想像できるので、メカノセンサー分子PIEZO1に焦点を絞って研究を行い、老化OPC ではPIEZO1の発現が高まっていることを確認し、さらにこのセンサーの発現を落とすと、老化した環境でもOPCの増殖が維持できることを明らかにする。

最後に老化マウスの脳内のPIEZO1をCRISPRシステムを利用して発現量を落とすと、増殖が高まり、さらにミエリンの再生能も高まることを明らかにし、老化によって固くなった頭を認識している機構がOPC上のPIEZOであることを明らかにする。

最後に、PIEZOの正常での機能を確かめる目的で、この分子を新生児期にノックダウンすると、OPCの数が5倍に増えることがわかり、この分子がOPCの脳内での数を決める分子であると確認している。

話はこれだけで、PIEZOが上昇するのが、頭が固くなった結果なのかがはっきりしない点は問題だが、文字通り頭が固いことについての研究だと思うと、面白い。

カテゴリ:論文ウォッチ