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9月10日 統合失調症の早期診断、早期治療はあり得るか(9月5日号 Cell 掲載論文)

2019年9月10日

統合失調症は動物モデルがほとんどないため、メカニズムに基づく治療法の開発が簡単でない。それでもこのコーナーで紹介しているように、iPS細胞を使ったり、病理標本を使ったりと少しづつ輪郭が見えてきているという段階だろう(統合失調症でAASJホームページを検索してもらうと40近い紹介記事が出てくると思う。このような論文を読んでいてなんとなくわかるのは、前頭前野、海馬などの介在ニューロンの発生が発症に重要で、これを早期に正常化できれば、長期の改善が期待できるような気がしてくる。

今日紹介するスイス・バーゼルにあるフレデリック・ミーシャ研究所からの論文はこの期待を裏付けるのではと思わせる研究で9月5日号のCellに掲載された。タイトルは「Long-Lasting Rescue of Network and Cognitive Dysfunction in a Genetic Schizophrenia Model (遺伝的統合失調症モデルの認知ネットワークの機能異常を持続的に正常化する)」だ。

この研究は面白いのだが、タイトルのつけ方などから野心的すぎてミスリードされる危険をはらんでいる。この研究で用いられたモデルマウスはLgDel(+/-)として知られる、人間の22Q11欠失症に相当するマウスモデルで、人間の場合心臓発生異常から知能障害まで多くの症状を示す。免疫学で有名なディ・ジョージ症候群もこの中に入る。ただ、この論文の場合このモデルを「統合失調症モデル」と一言で片付けており、その結果この研究で調べられている症状が全て統合失調症に集約するような錯覚を与えるので注意が必要だろう。

少し批判的に書いたが、前頭前野、海馬(CA1,vH)で高周波の脳波の異常を指標にするなど、十分人間の統合失調症に対応させられる。この研究ではまず、LgDelモデルマウスで50Hz以上の高周波数の脳波発生が統合失調症と同じように前頭前野で低下していること、shifting taskと呼ばれる行動テストや社会性テストがやはり統合失調症と同じで落ちていることを確認している。

もちろん症状だけでLgDelを統合失調症モデルといってしまうと問題はあるが、著者らは前頭葉の皮質に存在する介在ニューロンでParvalbminを強く発現した集団が思春期を越しても発達しないことを発見し、病理的にも統合失調症モデルとしても似ていること、またこの結果モデルマウスでは介在神経数は同じでも、活動が抑えられていることを発見する。さらに光遺伝学的に介在神経を抑制することでLgDelと同じ症状

そしてこの研究の最も重要な発見、すなわちこのPV陽性介在ニューロンの発生は、海馬では早く始まるが、前頭葉の皮質で異常が発生するのは生後60日目から120日目までの、人間で言えば思春期から大人になる過程であることが示される。この思春期から成人になる過程で異常が急速に発生するのは統合失調症の発症に似ており、もしこの過程をなんとか正常化させられれば、PV陽性介在神経の発生を清浄化できる可能性が生まれる。

そこで、まず介在神経の興奮が低下していることがわかった抑制型に傾いているLgDelマウスを統合失調症でも用いられるドーパミン受容体を抑制する薬剤を投与すると、一過性だがPVを高発現する介在神経が増えγ波が回復することを確認している。

この結果を受けて、PV神経の抑制・興奮バランスが形成され、γ波が発生する前から10日間ドーパミン受容体抑制剤を連続投与することで、PV神経バランスを正常型に戻し、γ波の発生を含む様々な異常を持続的に治せることを示している。

さらにこの治療効果のメカニズムを探るため、症状に最も関わる海馬のvHあるいは、前頭前野に薬剤を局所投与する実験を行い、驚くことにどいちらかでPVバランスを回復させると、この効果がネットワーク全体に及び、異常の発生を長期的に抑えられることを示している。

結果は以上で、魅力的な結果なので、少なくとも22Q11症候群の神経症状の治療に用いるための準備が進められる予感がする。ただ、難関はまだ異常が発生しない発達期の脳にドーパミン受容体の抑制剤を全身投与するための条件で、局所的な投与も許されるのならいつどこに投与するのかをはっきりさせるためのさらなる前臨床試験が必要だと思う。重要な研究だと思うが、まだまだ道は長そうだ。

カテゴリ:論文ウォッチ
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