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10月3日 腸上皮の概日リズムも腸内細菌叢がコントロールしている(9月27日号 Science 掲載論文)

2019年10月3日

概日リズムは24時間の地球サイクルを、生物のゲノムに内化した仕組みで、進化が環境の内化に他ならないことを示す例だ。もちろんジェットラグから分かるように、私たちの概日リズムは脳による地球サイクルの感覚により調整されるが、この調整とは別にそれぞれの細胞がリズムを刻むようになっている。

しかし、腸管のように、腸内細菌叢という地球上で進化してきた生物が共生している場所では、細胞のリズムはどうなるのか、確かに面白い問題だ。今日紹介するテキサス大学からの論文は、腸内細菌叢の存在しない無菌マウスの小腸上皮についてこの問題を調べた研究で9月27日号のScienceに掲載された。タイトルは「The intestinal microbiota programs diurnal rhythms in host metabolism through histone deacetylase 3 (腸内細菌叢がヒストン脱アセチル化酵素3を介して宿主の代謝の概日リズムをプログラムしている)」だ。

もちろん全ての概日リズムシステムが変化するわけではないと思うが、この研究ではまず転写の状態を示すヒストンのアセチル化のレベルの日内変動について正常マウスと無菌マウスを比べたところ、H3K9もH3K27いずれのアセチル化も普通は日内変動があるのに、無菌マウスではリズムがなくなり高いまま続くことを発見した。すなわち、ヒストンのアセチル化の概日リズムは間違いなく腸内細菌の影響を受けていることがわかった。

この発見がこの研究のすべてで、あとはなぜこんな現象が起こるのか、可能性を当たっていく事になる。まずヒストンの脱アセチル化酵素(HDAC)が関わることは間違い無いので、小腸上皮で発現して腸内細菌叢に依存性のたかいHDACを探すとHDAC3が見つかってきた。実際HDAC3の発現はMyD88など自然免疫系の刺激伝達系に依存しており、細菌叢依存的であることが確認される。

これでバクテリアのシグナルを伝える仕組の一端はわかったが、 HDAC3自体はリズムを刻まないので、次になぜHDAC3の活性がリズムを刻むのか調べ、結局リズム自体はHDAC3をヒストンに運ぶ分子コンプレックスの細胞に内因的なリズムに依ることが明らかになった。

はっきりいうとここでちゃぶ台返しされたような気になる。すなわち、バクテリアがリズムを決めるのかと思って読んできたら、結局バクテリアはHDAC3の発現に必要なだけで、リズムは細胞自体の持つリズムという事になってしまった。

腸内細菌叢はリズムの増幅器として働いているというわけだが、このリズムは様々なトランスポーターの発現リズムを介して宿主の代謝のリズムを整えている。特に、CD36と呼ばれる脂肪のトランスポーターの発現もこのシステムにより概日リズムを刻むため、ジェットラグや概日リズムが消失する事で肥満になる一つの原因になるようだ。

結局私たちのリズムは細菌によってハイジャックされたわけではなく、ただ腸内細菌叢がリズムを増幅してくれるおかげで、代謝のスムースな調節が可能だというちょっと残念な結果になった。まあある意味では、安心する結果だとも言える。

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