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10月6日 高血圧に対する伝統医療の科学性(米国アカデミー紀要オンライン掲載論文)

2019年10月6日

2017年3月、このブログでネアンデルタール人の歯石の中に柳やカモミールの遺伝子が発見されたことを報告した論文を紹介したことがあるが(http://aasj.jp/news/watch/6589)、当時ネアンデルタール人が病気の治療として薬草を使っていた証拠として話題を呼んだ。この例は少し極端だが、実際には世界中で古代から様々な病気に対して薬草を用いた治療が開発され、漢方をはじめとして、その一部は今も利用されている。

今日紹介するカリフォルニア大学アーバイン校からの論文は高血圧の治療効果があるとされる薬草が血管にも発現が認められるカリウムチャンネルKCNQ5を作用分子としていることを示したちょっと風変わりな研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「KCNQ5 activation is a unifying molecular mechanism shared by genetically and culturally diverse botanical hypotensive folk medicines (KCNQの活性化は血圧を下げるために伝統医学で使われた様々な薬草が共通に有している)」だ。

血圧計もない時代に高血圧とは何事ぞと思うが、実際には高血圧は硬脈として昔から認識されていたようで、この症状を和らげる薬草が各国で開発されていたらしい。

おそらくこのグループはカリウムチャンネルを研究してきたグループで、その中の一つKCNQ5は血管内皮にも発現しているため血圧を下げる標的分子として利用できるのではと研究を続けていたようだ。分子については構造も含めてよく研究されており、活性化できる分子の検出方法も確立しているので、薬剤の開発は進むはずだが、残念ながらKCNQ5の活性化を誘導できる化合物はまだ見つかっていなかったようだ。そこで、古代人の知恵を借りようと、古くから血圧を下げるとして使われている15種類の植物を集め、それを1%のアルコールで抽出した液をそのまま精製せずKCNQ5きに活性化作用があるかどうか調べている。

結果は驚くべきもので、調べた降圧作用がある植物のエキスは、活性はまちまちだが全てKCNQ5を活性化した。しかし、その他の目的で使われていた薬草には同じような効果は認められなかった。すなわち、古代人の知恵として長年経験的につちかわれてきた薬草は、どこでいつ開発されたかを問わず、同じ分子標的を持っていたという話だ。しかも、他のKCNQについてその作用を調べると、ほとんど効果は認められない。古代の知恵おそるべしという結果だ。

これがこの論文のハイライトで、あとは15種類の植物の中で効果の強かった中国で利用されているクララの根に着目し、そこから単離されている3種類のアルカロイドの効果をKCNQ5で試し、アロペリンのみがKCNQ5特異的に活性化できることを詳しく調べている。受容体との結合サイトや、結合とチャンネルの開放との関係などが実験的に示されているが詳細はいいだろう。要するに今後他の植物からも活性物質が見つかるはずだという例としてあげている。この解析部分を見ると、このグループはカリウムチャンネル解析には実力があるようなので、努力をつづけることだろう。

いずれにせよ、場合にもよるが伝統医学からも習うところは大きいという結論で、15種類例外なく効果があったという点に最も関心した。

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