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11月20日 電子カルテと燃え尽き(Mayo Clinics 紀要オンライン掲載論文)

2019年11月20日
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このブログは医師の方々にも読んでいただいているが、今日は医師の労働環境についての論文を紹介したい。

私が病院で働いていた頃は、ワープロすらなくカルテは全て手書きと、返ってきた検査データ伝票を貼ることで作っていた。もちろんレントゲンもスケッチは欠かさなかった。しかし現在ほとんどの病院で電子カルテが導入されている。その結果、患者さんが来ると(私は自分で診察をすることはないので、全て患者として医師に診てもらっている)医師はまずPCに向かって検査データを見たり、訴えを書き込んだりするのが普通になっている。

もちろん医療レコードを整理して保存するという意味では電子カルテシステムはデータを共有するという意味で、手書きのカルテに代わるのが当然で、ぜひ日本中の医療機関で同じプラットフォームの電子カルテが導入されることを願う。しかし、最近患者の立場で診療所に行くと、医師がコンピュータに向かっている時間が長くなったのではないかと心配してしまう。ベテランならともかく、おそら経験の少ない医師ほど、コンピュータに縛り付けられる時間は長くなるのではないだろうか。電子カルテシステムが本当に医師の労働の重しになっていないか、常に見直すことは重要だ。

今日紹介するエール大学からの論文は、電子カルテを使うことを義務付けられた現在の米国の医師たちが、電子カルテの使い勝手をどう思っているのか、また最近問題になっている燃え尽き症候群と電子カルテの使い勝手からくるストレスと関係あるかについてアンケート調査をした論文でMayo Clinic紀要にオンライン掲載されている。タイトルは「The Association Between Perceived Electronic Health Record Usability and Professional Burnout Among US Physicians (米国の医師の電子カルテの使い勝手についての感覚と専門職の燃え尽き症候群の経験)」だ。

調査では、電子カルテの使い勝手をsystem usability scaleと呼ばれる評価基準に従って調べている。このスコアで最も使い勝手がいいのはグーグル検索で100点満点の93、みなさんが使っているGPSは71、エクセルソフトは57という結果になっている。診療科を問わず約3万人の医師に協力を依頼、その中で承諾を得た1250人に詳しいアンケートをおくり、870人から完全な回答を得ている。同時に、燃え尽き症候群を診断するための診断ツールで、それぞれの医師の燃え尽き度を診断してもらっている。

結果だが、使い勝手のスコアは平均値で45と、大至急改善が必要という結果が出た。もちろん一人一人が付けた点数は多様で、10以下から90まで正規分布している。高い点数をつけているのが、麻酔科、小児科、内科とともに、なんと救急まで入っている。一方、低い点は整形外科、一般外科の医師がつけている。しかし最も点数が高い麻酔科でも50止まりだ。すなわちまだまだ改善の余地があるということだ。

次に、各人がつけた使い勝手点数と、参加者の自己診断に基づく燃え尽き度を調べると、使い勝手が悪いと感じている人ほど、燃え尽き度が高いことがわかった。各科ごとに見ていくと、神経内科や救急のように使い勝手点数が高かったのに、燃え尽き度も高いというケースもあり、燃え尽き度が電子カルテで決まるとは思はないが、少なくともなんらかの形で寄与していることは確かなようだ。

結果は以上だが、最も重要なことは、電子カルテをさらに発展させる重要性だろう。パソコンと違って、一度導入するとフォーマットを変えにくいことはわかる。しかし、パソコンが普及し始めるとき、アップルのアイコンシステムが、使う側に立って考えるシンボルとなったように、user friendlyかどうか常に医師の方から声を上げることが重要だと思う。今、働き方改革の議論が進むわが国で真っ先に問題になっているのが、医師のオーバーワークだ。是非、労働の内容を正確に把握して、労働環境改善を真面目に考えてほしいと思う。またこのようなデータを、わが国からも国際誌に発表していってほしいと思う。

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